【鹿島】「俺と綺世だけは、うんうん、って」期待の若き点取り屋と伊藤翔が共感した話

2019年09月02日 広島由寛(サッカーダイジェストWeb編集部)

上田は清水戦で2ゴール。「発奮材料になる」(伊藤)

FWとしての特別な感覚を共有する伊藤(左)と上田(右)。前線のライバル同士だが、切磋琢磨し合える良い関係性を築いている。写真:滝川敏之、SOCCER DIGEST

[J1リーグ第25節]清水0-4鹿島/9月1日/アイスタ

 伊藤翔は、"あのゴール"について、特に誰かと話すつもりはなかった。ストライカーとして大事な感覚があったが、それは他人とはなかなか共有できないと思っていたからだ。
 
 そんな伊藤にある日、上田綺世が話しかけてきた。「翔さん、あの感覚、分かります」と。
 
 2-2で引き分けた24節のG大阪戦、伊藤はチーム2点目となるゴールを決めている。小池裕太が放ったグラウンダーの鋭いシュートに対し、「球も速いし、難しいけど」(伊藤)、瞬間的に右足で合わせてコースを変え、ネットを揺さぶった。
 
「対角線に打つシュートもそうだし、あれがGKに弾かれたとしても、すぐ反応できるよ、っていう感覚。ああいう時って、ほとんどの人が立ったままでいるから、ボールが来た時になかなか触れない。でも『行けるよ』って準備しておくだけで、全然違う。その感覚がないと、立ったままで見てしまう。どこにこぼれるんだろうな、ぐらいではダメ。毎回、自分のところに来ると思っていないと。その感覚があいつにもあった」(伊藤)
 
 上田に話しかけられて、「マジで分かるの?」と伊藤も少なからず驚いたようだが、CFタイプのふたりは、他の人には分かりづらいかもしれないFWとしての感覚について共鳴。「俺と綺世だけは、うんうん、って」話し合ったという。
 
 それだけに、上田の凄みについて伊藤に聞けば「やっぱりヘディングが強い」と即答した後に、「ゴール前の感覚も持っていて、良い選手だなと思いますね」と称賛した。
 
 もっとも、伊藤にとって上田はFWのライバルでもある。4-0で完勝した今節の清水戦で、伊藤はサブでメンバー入りも出場のチャンスがなかったが、Jリーグ初先発を飾った上田は2ゴールを挙げ、アピールに成功した。
 
 上田の活躍について、伊藤は「発奮材料になる。自分ももっと頑張らないと」と闘志を燃やす。悔しさはあるだろうけど、「それが負の感情にはならない」ときっぱり。「チームとして良いこと」と仲間のハイパフォーマンスを頼もしく感じている。
 
 年長者として、後輩への想いもある。「綺世も今日、初めてスタメンで出るし、そこは上の人たちがサポートしたり、気を遣わないと。試合前にも、少し話もしました」。
 
 伊藤は「自分も歳をとってきたので(笑)」とうそぶく一方で、「まだまだできると思っている」とプライドをのぞかせる。そうやって切磋琢磨して、お互いを高め合っていく。それは上田と伊藤の関係だけではない。「若くても、若くなくても、鹿島には良い選手がいる」(伊藤)。一つひとつの競争がチーム力を引き上げる。清水戦で久々に先発に名を連ねた31歳の遠藤康は、1得点・1アシストと結果を残した。
 
「本当に、誰が出ても戦えるなっていうところは見せられたと思う」
 
 遠藤と同学年の伊藤が誇らしげに、タイトル奪取に邁進する常勝軍団の底力を語った。
 
取材・文●広島由寛(サッカーダイジェスト編集部)

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