愛媛加入後、いきなり2連勝!新加入の茂木力也がもたらした化学反応

2019年08月10日 江刺伯洋

どこかチグハグだったチームが明らかに一段高いところに進化している

茂木が3バックの一角に入ったことでチームの幅が広がった。(C)J.LEAGUE PHOTOS

  新加入・茂木力也は愛媛FCのラストピースなのか。

 7月25日、夏のマーケットで茂木が浦和から期限付きで加入した。DFの茂木は2016年にも愛媛で主力としてプレー。プロ2年目だった若武者は攻撃能力の高さも買われ、当時の木山監督とともに山形へ移籍した。そこで1シーズン半を過ごし、昨夏に所属元の浦和へ復帰したが、ほとんど出場機会がなく燻っていたところに愛媛が声を掛けた。
 
「愛媛の試合はずっと見てたし、自分が入ってからのイメージも持っていた。試合に飢えていました」と言うように、合流してわずか5日目の25節・V・ファーレン長崎戦で3バックの右サイドで先発。今季最多得点となる4-1の大勝に大きく貢献し、監督の起用に応えた。さらに翌節のファジアーノ岡山戦でも同ポジションでプレー。今度はチームを今季初の連勝に導いた。
 
 茂木がチームにもたらした最大の変化・進化は"左右のバランス"だ。
 
 愛媛の攻撃はこれまで前野や神谷、下川のいる左サイドが目立っていた。左で崩せるが右ではノッキング。チャンスが作れないわけではないがもどかしさがあった。
 
 そこに茂木が入ったことでもつれた糸がほどけたかのように右からもスムーズに攻撃が出来る様になった。すると左右どちらからも相手ゴールに迫る決定機が生まれ始めた。
 
 最大の恩恵を受けているのは、同サイドのMF長沼洋一だ。岡山戦で何度も決定機を作った長沼は「茂木さまさまです(笑)。正直やりやすいです」と大絶賛。「あとこれまでは左から右が多かったけど、この2試合は右から左の攻撃も増えている」とつなぎやビルドアップだけでなく茂木のサイドチェンジ能力を評価する。事実、長崎戦では右サイドの茂木が出したサイドチェンジのパスから下川陽太のJ初ゴールが生まれた。
 
 川井健太監督も「今日は(左センターバック)前野と(右センターバック)茂木の所で起点が作れて相手は嫌だったと思います。茂木は2試合目ですがホントにマッチしてくれてます。攻撃だけでなく守備でも」と左右のバランスの良さに言及した。

 茂木効果はこれだけではとどまらない。
 
 夏の3連戦で毎試合ほぼ半分の選手を入れかえた愛媛のスタメンで大きなサプライズは3戦目の岡山戦だった。前節に大勝したにもかかわらず3バックの真ん中を西岡大輝から山崎浩介に変えた。茂木が入るまで3バックの右サイドが主戦場だった山崎を今シーズン初めてセンターで使ったのである。「そろそろもう一段高いところまで要求してもいいころかなと思って」と川井監督は涼しげにその理由を明かした。
 
 結果は2点に絡む出色の出来だった近藤貴司を中心に20本近いシュートで岡山を圧倒。山崎は巧みなラインコントロールでリーグ得点王のイ・ヨンジェをオフサイドの網にかけ続けて4か月ぶりのクリーンシートを達成し、おまけに先制点となるヘディングまで決めた。「彼のプレーをベンチから楽しく見てました。今日のMVPですね」と指揮官も手放しで褒め称えた。
 
 このコンバートも茂木効果のひとつだ。茂木が3バックの右CBに入ることで玉突き的に山崎が真ん中へスライドしている。「力也が入って選手層も分厚くなった。僕は(3バックの右でもセンターでも)どこでも自分の責任を果たすことが大事だと思います」とこだわらない。
 
 どこかチグハグだったチームが明らかに一段高いところに進化している。それは間違いなく茂木が加入した2試合前からだ。
 
 ずっと探し続けていたものがあっさり見つかり少し拍子抜けしながら、それでも敢えてこの若者に聞いてみた。
 
「うーん……(僕が愛媛のラストピースなのか?)そこまで自分を持ち上げることはないですが(笑)。見てる人がそう思ってくれてるのなら。チームが今成長しているからこそ勝ててると思います」
 
 3年振りに戻ってきた若者は以前と変わらぬ謙虚さで真夏のスタジアムを後にした。
 
取材・文●江刺伯洋(南海放送アナウンサー)
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