最下位のFC岐阜に復調気配!「夏の反攻」の主役は川西翔太だ

2019年08月10日 小崎仁久

自らのプレー以上に気に掛けるのは、チームの成績だ

川西はここまで7得点。26節の長崎戦でも2点を決めた。(C)J.LEAGUE PHOTOS

 FC岐阜「夏の反攻」の先導者は川西翔太である。
 
 今シーズン、大分トリニータから期限付き移籍でやって来た。キープ力、パスセンス、ゲームを読む力。岐阜スタイルとの高い親和性を持ちながら、独特なリズムのドリブル、どこからでも狙えるシュートとチームに欠けた能力も備えている。
 
 しかしシーズンが始まっても、期待に反してまったく出場機会が得られず、ベンチにも入れない日々が続いた。チームの順位がズルズルと下がっていき、仲間が出口のない森に迷い込んでも、経験豊かなタレントは毎週末、観客席の最上段から試合を眺めるしかなかった。
 
 チームが順位表の底に張り付いたまま6月に入ると、ようやく出番が回ってきた。北野誠新監督の初陣とともに初先発。その19節・レノファ山口戦をはじめ、白星にはつながらなかったものの、ドリブルやボールキープ、アイデアのあふれるパスなど持ち味を披露し始めた。
 
 21節・アビスパ福岡戦では、立ち上がりから積極性を見せる。10分、敵陣中央でパスを受けるとゴールに向かい鋭く反転。細かなドリブルでDF陣を幻惑し自らシュートコースを空けると、ペナルティエリアの外から豪快に右足を振り抜き、ゴール左上の隅にボールを突き刺した。90+4分にもカウンターからひとりでボールを持ち込み2点目。福岡にダメを押し、2か月ぶりの白星につなげた。8連敗という瀕死の状況下、オールラウンドな活躍は「岐阜の川西」をやっと認知させることになった。
 
 仕事場を得て勢いづく川西だが、至って冷静ではある。「ゴールはたまたま入っただけ。他の試合でもチャンスはあったし、ゲームの流れを読んで、もっと点には絡まないといけない」。自らのプレー以上に気に掛けるのは、チームの成績だ。新しい指導者のもと、目標未達は許されない状況である。
 
「収穫もあるし、悪くはなってはいない。ただ(20節)東京V戦、(22節)千葉戦の終了間際などもったいない失点がある。もっと順位を上げていくには勝ちきることが重要。それに先に点を取りながらも追いつかれているので、追加点を取る、守り切ることができるとチームとして成長したと言える」

 サイドハーフから、中央のオフェンシブハーフ、トップまで様々なポジションを、試合ごと、状況の変化の中で任されている。そのエリアで守備はもちろん、ドリブル突破、最終ライン裏への抜け出し、カウンターの中でのボール保持、ゲームメイクなど、クールなテクニシャンに求められる役割は多い。「監督が求めることをやるだけ。自分どうこうではなく、チームのために何ができるか、どうやるのかが大事」。
 
 昇格も降格も経験しているプロ9シーズン目の選手は、チームを引っ張ることも期待されていた。
 
「それはちょっと難しかった。若いチームで、ゲームの中で声を出せる選手が多くなく、状況判断や時間の使い方、ゲームを読み切れないところから失点することもあった。それは分かっていたが、ただこれまで自分はベンチにも入れず、監督が求めていたことにも応えられていなかった状況で、どうチームにアドバイスをするかは難しかった部分があった」
 
 状況は変化し、チームの雰囲気も好転している。短い時間の中でもチームの意思統一は進み、大分でともにクラブをJ1に上げた馬場賢治もチームに加わった。プレー面でも精神面でも頼れる存在が増えた。
 
 これからは負けない戦いが重要と川西は言う。「もったいない試合」を減らすこと、勝点をひとつでも積み重ねること。チームに対して何ができるか。川西翔太にとっても挑戦の夏である。
 
取材・文●小崎仁久(フリーライター)
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