【J1コラム】興梠不在の浦和。8年ぶり優勝へ、改めて問われる「解決能力」|横浜 0-1 浦和

2014年11月04日 熊崎敬

G大阪との大一番でシステムは機能するのか。

攻撃のキーマンである興梠を欠いて苦しんだ浦和。8年ぶりの優勝へ、改めて問われるのが「解決能力」だろう。 (C) SOCCER DIGEST

 粘る横浜を1-0で退け、浦和が8年ぶりの優勝に大きく前進した。
 長く続いた膠着状態を打ち破ったのは、終盤に起用された19歳の関根。投入から3分後、右サイドから敵陣を切り裂き、巧みなボレーで値千金の決勝点を叩き込んだ。
 
 浦和というと大型補強が話題になるが、それは悪いことではない。だが、下部組織出身の若者がチームを救ったというのは、大きな意味があると思う。
 最近5試合、浦和がもたついていたのは得点力が落ち込んでいたからだ。G大阪の猛追にさらされたチームは、得点源の興梠を負傷で失う。この重苦しい空気を振り払う、ラッキーボーイの登場が待望されていたのだ。
 まだ安心はできないが、関根の一撃は後々語り継がれる名場面となるかもしれない。
 
 それにしても、浦和にとっては厳しいゲームだった。
 ポゼッションで敵を圧倒するチームが、ボールを持つことができず、長い間、押し込まれることになったからだ。
 浦和が自分たちの試合ができなかったのは、優勝への重圧というより、1トップの興梠の不在が大きいと思う。敵を圧倒するわけではないが、あらゆる質のボールを収め、確実にチャンスを膨らませて味方につなぐ有能なストライカーを欠いたことで、浦和は「機能美」を失った。
 
 縦パスが入らない。阿部から対角のウイングバックに飛ばす、ロングレンジのパスも出ない。2シャドーが前を向いて仕掛けられない――。
 いつものプレー、リズムが消えたことでピッチ全体に戸惑いが生まれ、目を覆うようなミスも出た。攻めて勝つはずのチームが、横浜の執拗なショートパスと緩急の変化に揺さぶられた。
 
 勝点3は手にしたものの、この試合で浦和は課題を露呈した。
 それは高度なプログラムを搭載したチームは、ボールを支配する自分たちの試合ができないと打つ手がなくなるということだ。
 サッカーは敵と駆け引きしながら臨機応変に進めるもの。だが、浦和は完璧に近いシステムで問題の大半は解決できてしまうため、不測の事態に直面すると機能不全に陥ってしまうのだ。
 システム依存。これは日本サッカー全体、いや、わたしたち日本人の生き方にも通じる課題かもしれない。
 
 わたしは今年、ブラジルで2か月過ごしたが、日本、それも東京を飛び出して、自分がいつもいかに便利で快適な社会で暮らしているか痛感する羽目になった。
 
 予約したはずの飛行機の予約が入っていない。
 バスがストライキで運行されていない。
 行き先の表示がない。
 時刻表がない。
 観光地は泥棒だらけ。
 
 システムが機能していない社会では、人間は自然と頭を使うようになる。
 ブラジル人はバスが来なければ来ないで、自分たちで車を捕まえ、仲間を募って分乗するなどして問題をクリアしていた。何かあったら、頭を使ってクリアするだけのこと。ブラジル人は自国のシステムを信用していないため、トラブルに直面してもお手上げになることがない。
 サッカーもブラジル社会と同じで、システムですべてを解決できるわけではない。そうした姿勢で、サッカーに向き合っているのが「日本のブラジル」鹿島だろう。
 
 一方の浦和は、サッカー(Jリーグ)は日本社会と同じで、システムで大抵のことは解決できると考えている。
 ペトロヴィッチ監督が構築した完成度の高いチームは、興梠という代えの効かない選手を失いながら、優勝に王手をかけた。次節、G大阪との大一番でシステムは機能するだろうか。
 
取材・文:熊崎敬
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