現地識者が語る“最古の世界大会”「コパ・アメリカ」の魅力。欧州にない泥臭さと究極のライバル意識、そして――

2019年06月14日 チヅル・デ・ガルシア

「ロハス事件」の関係者だったドクターと知り合いになったことも

ロナウド(左上)やメッシ(右上)といった数々の名手たちが彩ってきたコパ・アメリカ。その魅力とはいったい何なのだろうか。 (C) Getty Images

 1916年に第1回大会が開催されてから今回で46回目を迎えるコパ・アメリカは、現存する代表チーム対抗の大会として、五輪を除けば、世界最古。その長い歴史が南米諸国間の競争意識の高さの理由を物語っている。

 互いに知り尽くした者同士の戦いには独特の因縁がある。例えば、世界最古のクラシコと言われるアルゼンチン対ウルグアイや、「マラカナンの悲劇」と呼ばれる50年のブラジルW杯決勝のカードであるブラジル対ウルグアイ、そしてアルゼンチン対ブラジルといったように南米の3大強国による試合は、タイトルが懸かっていなくても絶対に負けられない試合として、真剣勝負が繰り広げられる。

 もちろんその3か国だけでなく、他の国々にもそれぞれのプライドと意地が感じられる。彼らにはゲーム内容が美しくなくとも、何が何でも勝ちに出るという「泥臭さ」があるのだ。

 マーケティング分野における最先端の技術とトレンドを駆使してクールに見せる欧州選手権とは違い、どこか垢抜けておらず、洗練されていない野暮ったさがあるものの、情熱では誰にも負けないサポーターたちが生み出す熱気は、コパ・アメリカの魅力の一つだと私は思っている。

 私がこれまでに取材した中で一番印象に残っているのは、89年のブラジル大会だ。アルゼンチンに住み始めてから3か月、当時20才だった私は、右も左もわからないままひとりでブラジルに行き、アルゼンチン代表のベースとなったゴイアニアに滞在していた。

 宿泊先は代表チームと同じホテルで、思い返せば、ずいぶん贅沢をしたものだが、毎日、ディエゴ・マラドーナやクラウディオ・カニーヒアを間近で見ては感動し、アルゼンチン・サッカー協会のフリオ・グロンドーナ会長(故人)にロジスティック面でかなり世話になった。さらにカルロス・ビラルド監督からは会見での質問の仕方を教わり、滞在中に具合が悪くなった時も代表専属のドクターに診てもらうなど、まるでチームの一員のように扱ってもらうという貴重な体験をした。

 また、この大会では、チリ代表のドクターと知り合い仲良くなったのだが、それから2か月後に行なわれたイタリアW杯予選で起きた、あの「ロハス事件※1」に関与していたとして、サッカー界から永久追放されてしまった。

 とても優しく、誠実な人間という印象だっただけにショックだったが、同時に「南米諸国間の戦いは人を極限まで追い込むものなのだ」と妙に納得したことを覚えている。

※1=90年イタリア・ワールドカップの南米予選で、ブラジルと対戦したチリのGKロベルト・ロハスが、スタンドから投げ込まれた発煙筒が頭に当たったと偽装するため、自ら剃刀で傷を付けた事件である。

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