愛媛FCが14年目でホーム100勝目を達成!観客数最下位からの脱却に向け、クラブ一丸で仕掛けたメモリアルマッチの舞台裏

2019年06月12日 江刺伯洋

村上社長のふたつの心配事はともに杞憂に終わった

17節の柏戦は3-1で快勝。会場には今季最多の7874人が駆け付けた。(C)EHIME FC

「こんなにやってるのになんで…って悩んでます」
 
 6月9日に行なわれた柏レイソル戦のキックオフ2時間前。愛媛FCの村上忠社長は苦笑いを浮かべた。彼の悩みはリーグ最下位になったホーム戦平均観客数のことだ。
 
 16節終了後で1試合平均3,208人。ひとつ上21位のツエーゲン金沢は4,361人。約千人もの差をつけられての22位。長年抱えてきた悩みから脱却するきっかけにしようと、クラブは17節のホームゲームに今シーズン最大の動員をかけていた。
 
 地元メディアへの露出はもちろん、松山市内6か所で全選手、スタッフ・ボランティア約70人でチラシ配りを実施。スタッフは市内全高校、選手らは小学校やスポンサー企業を訪問し、直接集客を呼びかけた。
 
 これまで十分ではなかったと集客活動を振り返るチームが辿り着いた答えは、"もう一度地元に根付いた活動をすること"だった。
 
「(小学生対象の)スクール生が400人から今年600人になりました。200人増やすのって大変なんです。この子たちがファンに、さらに選手になってくれるかもしれない」

 今季は会社ぐるみで"愛媛全部"と触れ合う事を主眼に置いている。
 
 一方で肝心の試合が魅力的でなければ継続的な集客効果は得られない。
 
「そこですよね。今季は出足に点を取られリズムに乗れてない。特にホームに来た人を満足させていない……だから何としても今日! 観客数も気になるけど内容も……」
 
 結局、村上社長のこの日のふたつの心配事はともに杞憂に終わる。
 
 スタートから前線の藤本、山瀬、吉田が猟犬のように柏ディフェンスに襲い掛かり試合を支配。バックパスもほとんどなくシュートを量産。異変に気付いたネルシーニョ監督が早々に江坂を投入し流れを変えたが先制は愛媛だった。
 
 49分、CKから山崎が打点の高いヘディングシュートを決める。71分、一瞬の隙からクリスティアーノに同点とされたがこの日の愛媛は違った。
 
 81分、有田からのボールを受けた丹羽がゴールへ一直線。決勝点となる2点目をぶち込み3分後に有田がダメ押しの3点目を決め、強豪・柏に快勝した。
 
 3得点に絡んだのはいずれも多くのチャンスを与えられていなかった選手たち。彼らだけでなく全選手が一丸となり、持ち味のハードワークを貫く"ザ・愛媛"の90分だった。
 
 14年目で達成したホーム100勝目。U-22代表への招集で主軸がいないなかでもやってみせた今季のベストゲーム。勝因は間違いなく今季最多7,874人のサポーターだ。
 
「それは断言できますね。僕の指示より観客の声のほうが断然力になると改めて思いました」(川井監督)
「選手もロッカーで言ってました。ひとつのプレーにこれだけ反応がある。それだけで力になると」(西田主将)
 
 もちろんこれで悩みが解消したわけではない。毎回この規模の集客活動をすればという声もあるが、マンパワー不足でそれができないもどかしさもある。
 
「動員をがんばった時はいつも勝てなかったんです。けど内容も良かったみたいだったんでまた観に来てくれるかも!僕はあとでゆっくり見ます(笑)」
 
 縁の下で奮闘した広報・菅浩雅は後片付けに忙しくミックスゾーンに消えていった。
 
 集客と勝利。このふたつに近道はない。しかし愛媛にはそのポテンシャルがあると証明して見せた。あとは今いる道を信じて、走り続けるのみである。
 
取材・文●江刺伯洋(南海放送アナウンサー)
 
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