素顔のペレグリーニ 【マンC番記者】が明かす知将の実像

2014年10月15日 スチュアート・ブレナン

ジョークを飛ばしながら笑顔でホスト役を務めた。

就任1年目でシティを2冠に導いたペレグリーニ監督とは、はたしてどんな人物なのか。知られざる知将の実像に迫る。 (C) Getty Images

 ロベルト・マンチーニ前監督時代、チームの雰囲気は殺伐としていた。
 
 マンチーニは頭に血が上りやすい激情家、しかもカルロス・テベス(現ユベントス)やエマニュエル・アデバヨール(現トッテナム)、マリオ・バロテッリ(現リバプール)といった一癖も二癖もある曲者が顔を揃えていた。監督と選手、あるいは選手同士の衝突や小競り合いは、それこそ日常茶飯事だった。
 
 そこに乗り込んできたのが、フェラン・ソリアーノCEOとチキ・ベギリスタインFDだった。バルセロナに未曾有の成功をもたらしたこのコンビは、殺伐とした空気の一掃を図って監督の交代に踏み切った。マンチーニを解任し、マヌエル・ペレグリーニを後任に迎えたのである。2013年の夏だ。
 
 我々イングランドのメディアは、ペレグリーニに接していささか面食らった。このチリ人指揮官は、驚くほどメディアに関心がなかったからだ。就任会見で、メディア対応は必要最低限と宣言し、実際その通りにした。その理由がまた驚きだ。「契約書に書かれていないから」で、クラブの公式サイトに対しても同様の態度を取っている。
 
 必要最低限の会見は、案の定、まるで面白くない。言葉は無味乾燥、イングランドのマスコミが得意とする"知的ゲーム"にも乗ってこない。行っても意味がないと、ペレグリーニの会見に足を運ぶのをやめた記者もいるくらいだ。
 
 もっとも、これはメディアに見せるペレグリーニの"偽りの姿"だ。その素顔はチャーミングで、人間味にも溢れていることを、私は知っている。昨年のクリスマスシーズンだ。一部のジャーナリストを招待して簡単なパーティーを催したペレグリーニは、ジョークを飛ばしながら笑顔でホスト役を務めた。その数日後のバイエルン戦では、馴染みの記者と勝利の喜びを分かち合っていた。
 
 就任1年目でプレミアリーグとリーグカップの2冠を制したペレグリーニを、ファンは全面的にサポートしている。彼らの信頼に応えようと、今シーズンのペレグリーニは以前より闘志を表に出している印象だ。
 
 メディアに対して素っ気ないとはいえ、率直に物は言う。例えば、アルバロ・ネグレドのレンタル移籍(バレンシアへ)が決まると、放出したのはファイナンシャル・フェアプレーの基準を満たすためで、本当は手放したくはなかったと、はっきりとそう言った。
 
 細やかな心配りができる人でもある。選手一人ひとりを気遣い、すべての関係者に丁重に接する。ペレグリーニはクラブを正しい方向に導くことに成功した。練習場でのつかみ合いや言い争いはなくなり、殺伐としていたロッカールームは一体感に溢れている。
 
 ペレグリーニは教養豊かで聡明な人だ。選手時代にエンジニアの学位を取得したのは有名なエピソードだろう。考え方は論理的でシャープ。そんなペレグリーニが理屈抜きで嫌っているのが、ジョゼ・モウリーニョだ。自分の後任としてレアル・マドリーの監督に就いたこのポルトガル人を、心から嫌悪しているという。
 
 オフの時間は、趣味のテニスを家族と楽しみながら、英国文化と歴史を満喫している。
 
 ペレグリーニはいま、満ち足りた時間を過ごしている。マンチェスター・シティもまた、充実のシーズンを過ごしている。
 
【記者】
Stuart BRENNAN|Manchester Evening News
スチュアート・ブレナン/マンチェスター・イブニング・ニュース
マンチェスターの地元紙『マンチェスター・イブニング・ニュース』のフットボール記者で、2009年から番記者としてシティに密着。それまではユナイテッドを担当し、両クラブの事情に精通する。
【翻訳】
松澤浩三
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