【元マドリー指揮官の視点】淡々と「神業」を繰り出すエリクセンとカソルラ――彼らこそフットボールの“本質”の体現者だ

2019年04月18日 エル・パイス紙

まるでアメフトのQBのように

ともに正確な技術と優れたプレービジョンで攻撃を操るエリクセン(左)とカソルラ(右)。そのゲームメイク力は際立っている。(C)Getty Images

 フットボールの"本質"を体現している選手がいる。

 ひとりがトッテナムの攻撃を牽引し続けるクリスティアン・エリクセン。そしてもうひとりが、今シーズンにビジャレアルで鮮やかな復活を遂げたサンティ・カソルラだ。

"外科医"のように綿密かつ精巧な技術でボールを扱い、明晰な頭脳でプレービジョンをデザイン。常に顔を上げてプレーすることで広範囲の視野を確保しながら、ドリブルも効果的に織り交ぜてワンタッチ、ツータッチでシンプルに捌いて攻撃の流れをスムーズにする。

 しかも、そうした難易度の高いプレーを彼らは恐ろしいまでに淡々とやってのけるのだ。

 その恩恵に授かるのは、言うまでもなくチームメイトたちだ。実際、ボールがエリクセンやカソルラの足下に収まると、受け手はより有利なシチュエーションでパスを受けられるのだ。

 彼らが表現するフットボールは、一般的なロジックを超越するケースも少なくなく、そのプレーレベルは、もはや「神業の域」に達していると言っても過言ではない。
 
 ふたりに共通しているのは、スピード、高さ、パワーといったアスリート能力が一様に欠如している点だ。しかし、そのプレーからはそんなのはどこ吹く風と言わんばかりの自信が垣間見える。

 元々備えているフットボーラーとしての優秀な遺伝子を、実践を通して磨くこと昇華させ、その蓄積した能力を局面局面でインスピレーションを駆使しながら開放させる――。そうやって、フットボールの醍醐味を我々に示してくれるのだ。

 選手を評価する際に、よく「試合から消える」という表現が使われる。しかし彼らにはそもそもプレーの継続性を求めるべきではない。たとえ散発的であっても、その一つひとつのプレーがチームに特大のプラスアルファをもたらしているからだ。実際、彼らは決定的な局面で勝利に直結する働きを見せ続けている。

 エリクセンとカソルラはアメリカンフットボールのQB(クォーターバック)のようにパスを自在に操り、味方に寸分の狂いもなくボールを配給する。そう、まるでゴッドハンドのように。忘れてはならない。彼らはそれを足でやってのけるのだ。

文●ホルヘ・バルダーノ
翻訳:下村正幸

【著者プロフィール】
ホルヘ・バルダーノ/1955年10月4日、アルゼンチンのロス・パレハス生まれ。現役時代はストライカーとして活躍し、73年にニューウェルズでプロデビューを飾ると、75年にアラベスへ移籍。79~84年までプレーしたサラゴサでの活躍が認められ、84年にはレアル・マドリーへ入団。87年に現役を引退するまでプレーし、ラ・リーガ制覇とUEFAカップ優勝を2度ずつ成し遂げた。75年にデビューを飾ったアルゼンチン代表では、2度のW杯(82年と86年)に出場し、86年のメキシコ大会では優勝に貢献。現役引退後は、テネリフェ、マドリー、バレンシアの監督を歴任。その後はマドリーのSDや副会長を務めた。現在は、『エル・パイス』紙でコラムを執筆しているほか、解説者としても人気を博している。

※『サッカーダイジェストWEB』では日本独占契約に基づいて『エル・パイス』紙に掲載されたバルダーノ氏のコラムを翻訳配信しています。
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