内田篤人 充実のパフォーマンスを支える「判断力」

2014年10月01日 田嶋コウスケ

「そこそこゲームは作れたかな」

このマリボル戦でも、内田は的確な状況判断でチームにリズムを生んだ。 (C) Getty Images

 怪我から復帰した内田篤人のパフォーマンスが際立っている。
 
 右膝を痛めて離脱したのは今年2月。懸命のリハビリでブラジル・ワールドカップには間に合わせたが、故障箇所への負荷がやはり大きく、大会後に症状が悪化して再び欠場を余儀なくされていた。
 
 実戦復帰を果たしたのは、9月23日のブンデスリーガ5節ブレーメン戦。シャルケの一員としてピッチに立つのは、約7か月ぶりだった。
 
 にもかかわらず、ブランクを微塵も感じさせないパフォーマンスを披露している。ブレーメン戦、続くドルトムント戦に連続フル出場。開幕から2分け2敗と呪われたように勝てずにいたチームを連勝に導くと、内田自身も2節連続で大衆紙『ビルト』のベストイレブンに選出されるなど、復帰直後からチームの柱として最終ラインを支えている。
 
 ドルトムント戦後の本人によれば、「60、70分くらいで(疲労が)足にきていた。コンディション的にこれが限界」。試合後も入念なマッサージとストレッチが必要な状態というが、内田の存在とプレーはすでにシャルケの大きな原動力になっているのだ。
 
 なかでも卓越しているのが、状況判断力である。
 
 敵に対して寄せに行くか、それとも持ち場を離れずステイするか。サイドに張るウインガーにつくか、あるいは味方に任せて自分は中へ絞るか。縦パスで攻撃のリズムを作るか、安全に足下へつなぐか。試合の流れや周囲の状況を的確に掴み、高い技術力をもって完遂している。
 
 シンプルにそつなくこなしているので内田のこうしたプレーは目立ちにくいが、その判断に誤りと迷いがほぼなく、結果、チームに抜群の安定感が生まれるのだ。しかも復帰直後から、判断力にいっそうの磨きがかかっているように映る。
 
 内田の聡明さは、例えば9月30日のマリボル戦(チャンピオンズ・リーグ)のこんなエピソードからもうかがえる。ベンチスタートだった内田は、ハーフタイムに突然出場を命じられたという。しかし、監督から具体的な指示はない。チームは1点リードされて前半を終え、しかも攻撃がうまく噛み合っていなかった。内田は、自分なりにこう考えたという。
 
「0-1で負けている状況で、サイドバックの俺がなんで入るのかと考えると、(攻撃の)組み立てとボールを落ち着かせることかなと。点を取るだけなら、前線の選手を入れればいいわけだし。ミスがないようにしながら、良いパスをCFのフンテラールに入れようと考えました」
 
 さらに続ける。
「サイドハーフやボランチに当てながら攻撃を組み立てるのが本当は安全だけど、(後半の45分間しか)時間がないのでそこは飛ばしてフンテラールに出そうと。SBとしてピッチに入れてもらったからには、試合の雰囲気やテンポを変えたかった」
 
「そこそこゲームは作れたかなと思いました」と振り返ったように、内田は確実に試合の流れを変えた。マイボール時に右サイドの高い位置にポジションを取ることで、味方にパスコースを作り出す。サイドを経由しながら内田が縦への突破を図ったり、フンテラールへのクロスボールを入れたりすることで、攻撃に確かなリズムが生まれた。
 
 しかも、マリボルのサイドMFは内田に引きずられるようにして自陣へ後退。押し込める状態が整ったシャルケはフンテラールのゴールで同点に追いつき、1-1のドローで勝点1を手にした。シャルケのパスがスムーズに回り始めたのは間違いなく内田が入った後半からで、彼の投入がこの試合のターニングポイントだった。
 
 ドルトムントとのルールダービーでも、地元サポーターから拍手喝采を浴びたシーンがあった。対峙する快足FWのピエール=エメリク・オーバメヤンがカウンターから突破を試みると、内田は抜かれないように間合いを取りながら、ドリブルが大きくなったところを見逃さず、スライディングタックルでボールを奪った。ブンデスリーガでトップクラスの速さを誇るオーバメヤンに追いつく脚力はもちろん、射程圏に捉えてから滑り込んだ状況判断の良さも特筆に値した。
 
 チームの安定化に不可欠なピース──。今の内田は、そう表現していいだろう。シャルケ在籍5年目の今シーズン、その評価はさらに高まる気がしてならない。
 
取材・文:田嶋康輔
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