香川真司は完全復活を遂げたのか――「フィジカル」的側面からパフォーマンスを解析

2014年09月19日 澤山大輔

動かなくなった肩甲骨、厚くなった胸板。

波田野氏が指摘する以前との違いは、肩甲骨の動き。いまは柔軟性が失われているという。 (C) Getty Images

 マンチェスター・ユナイテッドからドルトムントに復帰し、その再デビュー戦で香川真司は水を得た魚のように躍動した。先制点の起点となり、クロスに合わせてゴールを奪う大活躍を、いきなり演じてみせたのだ。
 
 香川は完全復活を遂げたと、そう太鼓判を押せるのか。セレッソ大阪から最初にドルトムントに渡ったころのような輝きを完全に取り戻したと、そう言えるのか。
 
 試みたのは、フィジカル的側面からの考察だ。「Oriental Physio Academy」の理学療法士・波田野征美氏が、科学的視点から香川のパフォーマンスを解析した。
 
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 香川真司選手がドルトムントに復帰し、さっそく1ゴール・1アシストと結果を残しましたね。素晴らしいことですが、まだ1試合であり過度の称賛は禁物だと思います。セレッソ大阪時代から現在までのプレーを見ての意見ですが、香川選手は身体が固くなってしまっているようです。
 
 具体的に固くなっているのは、肩の動きです。肩甲骨の動きが、明らかに少なくなっています。最初にドルトムントでプレーした時代の香川選手は非常に素晴らしく、背骨が自在にいろいろな方向に動き、肩甲骨も柔らかく動いていました。左右だけでなく前後にも動けていたのですが、映像で確認する限り、今はそうした柔軟性が失われています。
 
 セレッソ時代のプレーを見ても、ドリブラーとしての特長を強く持った選手ですね。当時のJ2では、誰も香川選手のドリブルを止められませんでした。自由自在に背骨を動かし、体幹を丸める・反る動き、切り返しやターンなど左右の動きに加え、緩急を加えた前後の動きにも長けていました。
 
 それも、ゆったりとしたドリブルから急にトップスピードに持っていくというだけでなく、ある程度スピードに乗った状態からでも、DFに相対したとき、本当に一瞬だけ緩めて、そこからまたスピードを上げる。そういう、前後の緩急の動きが非常にコントロールされていました。
 
 こうした特長は、少なくともマンチェスター・ユナイテッド時代には失われています。ただ歩いている、ただ走っているだけの映像を見ても、香川選手が高いパフォーマンスを発揮していた時代は肩甲骨がよく動き、肩を前後によく動かして歩いている印象でした。しかし現在は、ほとんど動いていません。腕によって腕を振る、というような動き方です。
 
 原因はやはり、トレーニング内容にあるのではないかと思います。
 
 最初のドルトムント時代と、ユナイテッドに加入した頃の上半身とを比較すると、明らかに胸板が厚くなっています。それから、腹筋を鍛えすぎている気がしますね。前側の筋肉を鍛えすぎたことで背中が丸まってしまい、胸椎が後弯(後ろの方向に丸くなってしまう)しています。
 
 また、腹斜筋を鍛えすぎた結果、肋骨も狭くなっているのではないでしょうか。これら様々な要因が重なった結果、香川選手の特長である前後左右の自在な動きが制限されているように思います。
 
「セレッソ時代・前ドルトムント時代」と比較すると、ユナイテッド時代から現在までの香川選手は、一歩目が遅いです。「セレッソ時代・前ドルトムント時代」は、切り返しの際の身体の傾きにエッジが効いていて、フェイントを掛けて抜きたい方向に大きく重心が傾けられています。
 しかし腹筋を鍛えすぎて肋骨が広がりづらい状態になると、横方向への動きがやりづらくなります。そのせいで、切り返しが遅くなっているのではないでしょうか。

次ページ良かったころは全身がうねうねと波打ち――。

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