【番記者通信】生まれ変わったナスリの権利|マンチェスター・C

2014年03月12日 スチュアート・ブレナン

ペレグリーニは願ってもない監督だった。

理想の指揮官を得て、みずからも改心したナスリは、ここ2年の不振から完全に脱却。ワールドカップの舞台に立つべき選手だと、ブレナン記者は語る。 (C) Getty Images

 サミア・ナスリがフランス代表の招集メンバーから外れた。3月5日の親善試合、オランダ戦に呼ばれなかったのが、シティのチームメイトやファンにとって驚きのニュースだったのは、精彩を欠いた過去2シーズンの不調から脱し、ここまで好調を維持していたからだ。

 ナスリが燻っていたのは、昨シーズンまで指揮を執ったロベルト・マンチーニ前監督と反りが合わなかったからだ。マンチーニが続投していれば、ナスリは今シーズン、別のチームのユニホームを着ていたはずだ。冒険を好まない、現実的なイタリア人指揮官の志向に、フランス人MFは馴染めなかった。

 両者の亀裂を深めたのが、昨シーズンのニューカッスル戦後に発したマンチーニの一言だ。その試合で活躍したナスリについて、
「今日は良かったが、パフォーマンスは安定しない。殴ってやりたいと思う時もある」
 そう言い放ったのだ。冗談交じりだったとはいえ、言われたほうには気持ちのいい言葉ではない。これで2人の関係は事実上破綻した。

 プレーがそうであるように、繊細さと傲慢さを内包するナスリに適しているのは、包容力のある父親のような指揮官だろう。そう、マンチーニではなく、マヌエル・ペレグリーニのような監督だ。

 60歳のチリの知将は人心掌握に長けている。かつて師事したある選手は、ペレグリーニのためなら喜んで戦場に赴くと、そう話すほどだ。選手に自信を与える巧みな言葉に加えて、ペレグリーニが好むのは攻撃的なポゼッションフットボールだ。ナスリにとって願ってもない監督だった。

 理想の上司を得る一方で、ナスリ自身、心を改めた。代理人や周囲の親しい人間と真剣に話をして、このまま才能を浪費させてはいけないと、そう自省したのだ。こうして生まれ変わったナスリは、ここまでハイパフォーマンスを続け、先のリーグカップ決勝ではスーパーゴールを決めてチームにタイトルをもたらした。右足アウトサイドでダイレクトに叩いた56分の勝ち越しゴールは、ハイライト集に残るような鮮やかな一撃だった。

 オランダ戦への招集を見送ったフランス代表のディディエ・ディシャン監督には、悪いイメージが残っていたのだろう。昨年11月のワールドカップ欧州予選プレーオフ、ウクライナ戦でまるで機能しなかったナスリのその姿が、脳裏に焼きついていたのかもしれない。

 はたして、ナスリは本大会に招集されるのか。最高の選手たちが競い合う最高の舞台が、ワールドカップだ。生まれ変わったナスリは、その舞台に上がる権利を取り戻したはずだ。

【記者】
Stuart BRENNAN|Manchester Evening News
スチュアート・ブレナン/マンチェスター・イブニング・ニュース
マンチェスターの地元紙『マンチェスター・イブニング・ニュース』のフットボール記者で、2009年から番記者としてシティに密着。それまではユナイテッドを担当し、両クラブの事情に精通する。

【翻訳】
松澤浩三
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