【ベトナム戦検証】森保監督はなぜターンオーバーを採用しなかったのか? 浮かび上がるリスクと人情味|アジア杯

2019年01月25日 加部 究

ベトナムという相手に、メディアからは「ご褒美」「プレゼント」などという言葉も

日本代表をベスト4に導いた森保監督。ベトナム戦は様々な要素が入り組み、難しいマネジメントになったことは間違いないだろう。写真:茂木あきら(サッカーダイジェスト写真部)

 五輪世代との兼任監督らしい判断だった。

 ベトナムについての認識は、現場とそれを取り巻く周囲との間に大きな乖離があった。

 ベトナムのエース、グエン・コン・フォンは、J2の水戸で5試合出場無得点の足跡しか残せずに帰国。「もう一度日本でプレーしたい」というコメントがメディアに流れていた。

 彼の試合後の言葉も印象的だ。
「日本の選手たちは、みんな欧州でプレーしているのに、我々は日本ですらプレーできていない」

 だが実際にフタを開けてみれば、グエン・コン・フォンは俊敏で複数のDFを相手にしてもボールを失わず、吉田麻也も冨安健洋も必死の対応を強いられた。若いベトナムは、U-23アジア選手権では決勝に進み、アジア大会でもベスト4に進出している。アジア大会では、2歳のハンデを抱え東京五輪世代で臨んだ日本が、互いに2勝ずつ挙げた後の3戦目で顔を合わせ、ターンオーバーしたメンバーながら0-1で敗れていた。

 森保一監督は、こうしたベトナムの躍進を目の当たりにしてきた。その上で最も怖れたのは弛緩だろう。

 準々決勝の相手がベトナムに決まり、日本側から楽勝ムードを払拭するのは難しかった。メディアを通して「ご褒美」や「プレゼント」などという言葉が出てくる。選手たちからは楽観視を危惧する発言も出ていたが、逆に懸命に引き締めようとする姿勢の裏にも、指揮官はリスクを感じ取ったのかもしれない。
 
 本来厳しい戦いが予想される準決勝以降を見据えるなら、ベトナム戦はターンオーバーが常套策だ。あるいは総入れ替えをしないまでも、この試合で警告を受けると準決勝に出場できなくなる選手を中心に(準決勝以降は累積がリセットされる)メンバーを入れ替えるのが得策だろう。特に右サイドバックの酒井宏樹は前戦終盤に足が攣ってしまい、攻勢が想定されるベトナム戦なら室屋成のスピードとパワーが活きたはずだ。また2列目には、乾貴士、伊東純也ら他にもタレントが控えていることを考えれば、今大会で調子の上がっていない南野拓実を外すか、堂安律を温存という選択肢もあった。

 当然森保監督も、その可能性を探ったはずだ。もしここでターンオーバーを採用しなければ、逆にサブ組が「信用されていない」と感じるリスクもある。しかし敢えてイエロー保持者も含めて従来のスタメンで臨んだ。それはベトナムが、そういう覚悟で戦うべき相手だという強烈なメッセージだった。さらに急成長の若い新興国なら、今絶対に叩いておきたいという意識も働いたに違いない。
 

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