なでしこJの宮澤ひなたを擁しても1勝もできなかった星槎国際湘南はなぜ高校女子日本一に辿り着けたのか?

2019年01月14日 西森彰

決勝点の豪快ミドルは「半分くらいの確率で入るんじゃないかと踏んでいました」(柄澤監督)

これまで出場した3大会で1勝もできなかった星槎国際湘南だが、今冬は5勝を積み重ね日本一を達成した。写真:金子拓弥(サッカーダイジェスト写真部)

[全日本高校女子サッカー選手権・決勝]星槎国際湘南1-0常盤木学園/1月13日/神戸ユ

 神奈川県予選のあるゲームで、星槎国際湘南のロングシュートが決まった。遠目には、前の選手に合わせたボールがそのまま入ったようにも見えたので、柄澤俊介監督に話を振ると「いや、ウチの選手は練習の時から狙って蹴っているし、今日もそうでしょう。試合でも、こうやって意外に入るんですよ」。

 全日本高校女子サッカー選手権決勝の前半23分、星槎湘南がゴール正面の位置でフリーキックを得た瞬間、ふと、その会話を思い出した。相手のプレッシャーがなければ、少々、距離があってもゴールを狙える技術と自信が、このチームにはある。問題は、この状況で最適なキッカーが誰なのか。指名を受け、進み出たのは、2年生センターバックの黒柳智世だった。

 舞台は、準決勝と同じ、天然芝の神戸ユニバーシアード記念競技場。芝丈が長く、足を滑らせるプレーヤーも目立っていたが、反面、ボールはティーアップされた状態で、キックの飛距離は全体的に伸びていた。この日も加藤もものシュートが、バーを強く叩いていた。柄澤監督は、そうしたピッチコンディションも考えたという。

「ストレートの弾道で勝負すれば、半分くらいの確率で入るんじゃないかなと踏んでいました。遠藤彩椋は、いろいろなキックの種類を持っているので、どれを出すか分からない。カーブをかけて巻いたら、スピードが落ちてしまうし、相手も良いGKなので、触られると思いました。その点、黒柳はストレートしかないから」(柄澤監督)

 指揮官の期待どおり「ただ、足を振り切ることだけを考えた」(黒柳)というシュートは、大会屈指のGK今井佑香をもってしても阻止できない勢いで、ゴールネットを揺らした。

 値千金のゴールを決めた黒柳は、本職の守備でも骨の折れる仕事を任されていた。なでしこリーグに進路をとるエース・中村恵実をはじめとする、常盤木の強力な攻撃陣とのマッチアップだ。黒柳は、コンビを組むキャプテンの渋谷巴菜、2年生GKの小野葵らと辛抱強く、ディフェンスを続けた。

「常盤木のこれまでの試合も映像で見ていましたが、(中村は)大きくて、足もとも普通にうまい選手。ゴール前で仕事をさせると、絶対に失点につながってしまいます。最初はちょっと恐れていましたが、『ビビったら終わりだ』と思って、最後は気持ちで負けないようにとやっていました」(黒柳)

 この「気持ち」というフレーズが、従来の「星槎カラー」とは違うのだ。
 

次ページ丁寧につなぐスタイルを封印。地味な駆け引きも厭わず「チームがひとつにまとまった」

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