【J1コラム】残留めざして繰り出す「ウルトラC」 めげない甲府の戦いは続く

2014年08月31日 熊崎敬

「日本人の差」をブラジル人で埋めようとする。

ミスもあって柏に完敗した甲府。降格圏内の16位・C大阪とは勝点1差だが、しぶとく、めげずに最後まで残留争いを戦い抜いていくはずだ。 (C) SOCCER DIGEST

 秋の気配が漂うにつれて、J1残留を巡る争いは厳しさを増してくる。夏休み最後の開催となった8月30日の22節では、下位4チーム(徳島、大宮、C大阪、甲府)が揃って敗戦。まだ12試合を残しているが、先行グループとの差が開き始めた。
 
 今節、ぼくが観戦したのは、柏レイソルが15位に沈むヴァンフォーレ甲府を3-0で退けたゲーム。敗れた甲府は最近8試合で5分け3敗と、長く白星から遠ざかっている。
 
 この試合は柏が甲府を圧倒したというより、甲府が自滅した印象が強い。
 
 工藤壮人に許した20分の先制点は、最終ラインの山本英臣と佐々木翔が対応を誤り、工藤に道を空けてしまった。
 
 後半立ち上がりの2点目も、右サイドに残る橋本和をフリーにしたことで、レアンドロに絶妙なクロスを上げられた。
 
 56分の3点目は、反撃に出ようと前掛かりになったところを突かれたもの。これは致し方ない面もある。
 
 城福浩監督も、1、2点目を反省していた。
「いまのチームの質で戦っていくという点で、1点目が大きかった。また後半開始1分の2点目も、強く強く反省しなければいけない」
 
 前半の立ち上がりは甲府が主導権を握っていたし、その後も決して悪くなかった。だが、肝心なところでミスが出る。残留争いをするチームは、そういう脆さがあるものだ。
 
 記者会見で城福監督は「いまのチームの質では」という言葉を繰り返した。監督が言うように、戦力的に厳しいことは明らかだ。日本人選手の質は正直、他チームに見劣りする。
 
 甲府は、日本人の差をブラジル人によって埋めようとする。
 外国人枠をフルに使わないチームも多い中で、甲府はブラジル人を3人起用している(クリスティアーノ、ジウシーニョ、マルキーニョス・パラナ)。
 
 城福監督は極めて現実的な5バックの布陣を敷き、その中で3人のブラジル人を効果的に使うことで、勝点を手繰り寄せようとする。
 
 興味深いのがジウシーニョの起用法だ。チームでいちばん上手い選手を、5バックの右ワイドで使っているのだ。この狙いはサイドにキープ力のある選手を置くことで、ボール支配の安定感を高めたいからだ。
 
 サイドはプレッシャーが少ないため、味方は困ったときにボールを預けられ、ジウシーニョも機を見て上がり、精度の高い右足のキックを生かすことができる。
 この柏戦でも、彼は数多くボールに触り、何度も逆サイドに効果的なサイドチェンジを繰り出していた。
 
 甲府の試合運びを見ていると、城福監督が粘り強く小石を積み上げるようにして、チーム作りをしていることが伝わってくる。
 それでも勝てないのは、先に述べたように個人の質が足りないからだ。試合を救える日本人は見当たらないし、ブラジル人にしても確実に違いを生み出せるほどスーパーではない。
 
 だが甲府は、勝負の秋に向けてウルトラCを繰り出してきた。
 
 8月27日、キリノのアジア枠での獲得が発表された。しかも、ブラジル出身のこのFWが取得したのは東ティモール国籍。目のつけどころが素晴らしい。
 
 ブラジル人が3人で足りなければ、アジア枠を利用して4人目を送り込む。このしつこさは甲府の持ち味なのだろう。
 彼らは昨季、外国人で外れクジを引き続け、それでもめげずに最終的に8人を獲得。最後にパトリック、ジウシーニョを引き当て、残留への道を切り拓いている。
 
 熾烈を極める残留争い、台風の目になるのは甲府かもしれない。
 
取材・文:熊崎敬
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