【J Inside Story】湘南・大竹洋平――二度目の大怪我を乗り越えた小さなファンタジスタの復活秘話

2014年08月30日 小田智史(サッカーダイジェスト)

監督、スタッフ、同僚、そしてサポーターに支えられ。

前十字靭帯の怪我を経験したのは、今回が二度目。この大きな試練を、大竹はどのようにして乗り越えたのか。 (C)SOCCER DIGEST

 J2の首位を独走する湘南ベルマーレに、頼もしい男が帰ってきた。背番号7番、身長166センチの小さなファンタジスタ、大竹洋平である。
 
 いまから約9か月前のことだ。2013年11月3日の横浜F・マリノスとの練習試合で、大竹は右膝前十字靭帯を断裂。全治8か月の診断を突き付けられた。FC東京時代に左膝の前十字靱帯と内側半月板を損傷している大竹にとって、二度目の大怪我だった。前十字靭帯が切れている、そう知らされた時は、絶望しかなかったという。
 
 それでもすぐに頭を切り替え、絶望のなかに一筋の光明を見出した。「一度、左足で復帰できた。今回も大丈夫だ」。大竹はこうして長いリハビリ生活に入っていったのだった。
 
 チームの理学療法士で、リハビリに付き添った小川岳史氏によると、大竹は他の選手に比べて関節が柔らかいため、従来よりも慎重に工程を踏んだという。患部は動かさず、関節周りの筋肉や体幹の鍛錬から始まったトレーニングは1日計5時間、週6回というスケジュールで続いた。前十字靭帯断裂のリハビリは、それは過酷なものだ。しかし大竹は、前向きだった。
 
「普通、リハビリ期間中は落ち込む選手が多いんですけど、彼は一度前十字靭帯の怪我を経験していることもあって、(感情の)波はほとんどありませんでした。印象的だったのは、これはやっていい、これはやってはダメというものを自分自身でよく理解していること。頭の回転が速いので、やるべき時はすごく集中してやるし、疲れている時は『今日はこのメニューやめましょう』とか交渉が上手でしたね(笑)」

 小川氏はそう振り返る。
 
 ジョギングを開始した頃には、右足の筋力は左足の6割程度にまで落ちていた。ダッシュができる目安はおよそ8割。地道に筋力トレーニングを続け、6月下旬にはダッシュの段階に移ることができた。
 
 その間、曺貴義監督をはじめスタッフ、チームメイト、そして応援してくれるサポーターが支えになった。大竹は言う。

「監督は常に気遣って声をかけてくれたし、チームメイトやスタッフ、サポーターのみんなが帰りを待ってくれているのがすごく伝わってきました。だから、リハビリもそこまで苦にならずにできたと思います」
 とりわけ、FC東京のジュニアユース、ユースで一緒にプレーし、今季からチームメイトとなった岡田翔平の存在は大きかった。開幕前のトルコキャンプでも同部屋だった気心知れた旧友とは、試合後にゲームのことやその日のプレーについて意見を交わすなどサッカー談義に花を咲かせ、休日には頻繁に食事に繰り出して、多くの時間を共有した。
 
「自分はなにも手助けできたわけじゃない。洋平自身が頑張ってリハビリを乗り越えてきたからこそだと思います。僕がしたことと言えば、一緒に飯を食いに行ったり、話を聞いたくらいですよ」

 照れ臭そうに述懐する岡田に、大竹は深く感謝している。

「岡田とはほぼ毎日と言っていいほど、多くの時間を過ごしました。ただ一緒にいてくれただけで僕は気が楽だったし、アイツが頑張っているから『俺も頑張ろう』と思えた。彼がどう思っているかは分からないですけど、僕としては相当助けられたし、支えになってくれました」

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