【現地発】リュカだけじゃない! 増える不満分子…鉄の結束を誇ったシメオネ・アトレティコにヒビが

2018年12月25日 エル・パイス紙

退団匂わせ、好条件の契約を勝ち取ったエースの存在が引き金に。

今夏、バルサへの移籍を匂わせていたグリエーズマンを引き留めるため、年俸アップに応じたアトレティコだが、その決断がチームの和を乱す結果に。(C)Getty Images

 リュカ・エルナンデズのバイエルン・ミュンヘンへの移籍騒動が勃発して以来、初めて迎えたホームのエスパニョール戦。ディエゴ・シメオネ監督は試合前、ファンに対して残留を後押しする行動を嘆願していた。

 しかし、前キャプテンのガビ(現アル・サッド所属)の退団セレモニーの開催と重なったにも関わらず、リュカの残留を求めるコールがスタジアムに鳴り響くことは、ただの一度もなかった。

 試合後、シメオネは改めて残留希望を公言したが、選手たちの中で指揮官に追随したのは、17歳のときに放出され、今年の夏にビジャレアルから舞い戻ってきたMFのロドリのみ。むしろシーズンの真っ只中にこのような騒動を起こしたリュカに不信感を抱く者は少なくなく、「まったくいい迷惑だ」と不満を口にしてはばからない選手もいる。

 リュカの態度が明確でないことも、騒動をさらに混乱させている一因だ。

 ミゲル・アンヘル・ヒル・マリンCEOやシメオネ監督ら首脳陣に対して、「バイエルンとの契約は白紙のままで、1月の退団はない」とみずから否定したその翌日に、リュカの代理人のマヌエル・ガルシア・キロンから「交渉の場を設けてほしい」との連絡が入るなど、クラブ側はその対応に右往左往しているのが現状だ。
 
 ひとつ確かなのは、リュカ側が待遇の改善を希望していること。

「4年契約、手取り年俸約850万ユーロ(約11億500万円)」というバイエルンから提示されている高額オファーをチラつかせ、金額と条件面の向上を訴えている。だが、リーガによって定められたクラブ別の年俸総額の上限、2億9300万ユーロ(約380億9000万円)にすでに達しているアトレティコにとって、これは到底受け入れられるものではない。

 それでもシーズン中の流出だけはなんとしても阻止したいアトレティコは、「シーズンの終わりまで残った場合、8000万ユーロ(約104億円)に定められている契約解除金の一部を、補償金として選手側に支払う」という案を提示している。

 ただし、このアイデアにしても、シーズン中の移籍オペレーションは代理人が手にするコミッションが高額になるケースが多く、その"補償金"の額がいくらになるかなど、双方が希望する様々な条件をすり合わせるのは困難な情勢だ。

 またリュカがこのまま今シーズン終了まで留まるにしても、ファン、チームメイトの間での信頼の低下は避けられない。たとえばこの日、ガビが享受したような愛情をファンから受けることはないだろう。

 さらにはMFのトーマス・パーテイも、「時々幸せでないと感じることがある。重要な試合にもっと出場して活躍したいけど、それは叶わない。これでは自信を培うことはできないし、幸せに感じることもできない」と口にするなど、チーム内に不満分子は確実に増えている。

 結局のところ、リュカの移籍騒動もこのトーマスの発言も、すべては手取り年俸約2000万ユーロ(約26億円)という破格の待遇を持ってアントワーヌ・グリエーズマンを引き留めた、クラブの今夏の決断に端を発している。

 リュカやトーマスのほかにも、ジエゴ・コスタ、サウール・ニゲス、ヤン・オブラク、ディエゴ・ゴディンと、待遇の改善を訴える主力は相次いでおり、鉄壁を誇ったシメオネ・アトレティコのチームワークにヒビが生まれつつあるのは確かなようだ。


文●ラディスラオ・J・モニーノ(エル・パイス/アトレティコ番記者)
翻訳:下村正幸
※『サッカーダイジェストWEB』では日本独占契約に基づいて『エル・パイス』紙の記事を翻訳配信しています。
 

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