【J1コラム】川崎戦での浦和に見られた、ハイレベルな戦術に潜む危険性

2014年08月11日 熊崎敬

日本代表同様に試合運びが素直でしたたかな駆け引きができない。

開始2分に梅崎(背番号7)のゴールで幸先良く先制するも逆転負け。原口元気の退団などの影響もあるだろうが、ゴールを決めるための根本的な部分の見直しが求められる。 (C) SOCCER DIGEST

 J1優勝争いを左右する2位・浦和レッズと3位・川崎フロンターレの対決は、ホームの川崎に軍配が上がった。
 
 浦和にとっては4月26日の柏レイソル戦以来、9試合ぶりの敗戦。Jリーグの連続無失点記録を樹立し、一時は独走態勢に入るかと思われたが、最近3試合は2分け1敗と足踏みが続いている。
 
 試合の主導権を握っていたのは浦和。川崎が自陣のスペースを消そうと引いたこともあって、彼らは後方からパスを回してサイドへ大きく展開するという、いつもの流れからゴールを奪おうとした。だが、梅崎司が決めた2分の先制点が唯一のゴールになった。
 
 試合後、ミハイロ・ペトロヴィッチ監督は、「敗れたが、素晴らしいゲームを見せられた。(相手にとって)危険な攻撃をすることができた。前線からも激しいプレスを仕掛け、川崎のサッカーをほとんどさせなかったと思う」と前向きな感想を語った。
 
 そう、浦和は敗れたが、決して悪いゲームではなかった。いいプレーをしながら、ゴールに恵まれなかったことについて、ペトロヴィッチは面白いことを言っていた。
 
「戦術的に選手が連動するところは、欧州のトップレベルと比べても、同じくらいの狙いを出せている。ただ、最後の質に差があると思う。ちょっとした違いだが、大きな違い。止まったり、横パスを出すのは、誰でもできる。トップスピードでスプリントするなかで技術を発揮できるか。その部分が、トッププレーヤーに比べると不足している。そうした部分を改善できれば、我々はもっといいチームになると思う」
 
 浦和のゲームは、緻密な戦略によって練り上げられている。前線に5人が並んで細かく出入りを繰り返し、縦パスからダイレクトパスを織り交ぜて中央突破を狙う。敵が中央を固めれば、左右に大きく展開して、数的優位のサイドから崩しにかかる。論理的に隙のないゲームプランだ。
 
 だが、川崎戦がそうだったように、攻めてはいても効率は悪い。それはペトロヴィッチ監督が語るように、最後のところの問題を解決できずにいるからだ。
 
 エメルソン、ワシントンがいた時の浦和は、「ストライカーが決める」ゲームをしていた。だが、圧倒的なタレントがいない今は、「決めた選手がストライカー」という発想でゲームをしている。緻密な戦略は、そのためのもの。"エメ"や"ワシ"がいれば必要ない。
 
 この緻密な戦略が万能の特効薬であれば、浦和は首位を快走しているだろう。そうならないのは、戦術や戦略ですべてを解決できるほどサッカーは甘くないからだ。特にペトロヴィッチが強調するゴール前は、マニュアルだけでは解決できない。
 
 難しい戦術を高いレベルで実践するという意味で、浦和はJ1トップレベルにあると言えるだろう。だが、約束事に忠実になりすぎると、規則性に陥ることで意外性がなくなり、敵に読まれやすいという問題が浮かび上がる。
 
 川崎戦の後半、浦和はサイドからのクロスに終始した。中央を閉じられているため、外へと迂回したのだが、それは川崎の思う壺だった。ギリシャ戦の日本がそうだったように、試合運びが素直で、したたかな駆け引きができていない。
 
 圧倒的な個人がいないから、組織力を押し出した緻密な戦略によって状況を解決する。この浦和の方向性は、今まで日本が歩んできた道と多くの部分で重なる。日本代表はブラジルで惨敗したが、浦和はどうだろう。緻密な戦略を積み上げた素直なチームは、8年ぶりのJ1制覇を成し遂げられるだろうか。
 
取材・文:熊崎 敬
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