【J1・19節クローズアップ】サイドバックとして開眼した登里享平が川崎の左を支える|川崎 2-1 浦和

2014年08月10日 安藤隆人

決勝点をもたらしたディフェンス面の駆け引き

攻撃だけでなく守備面の貢献度も高い登里。川崎の躍進を支える選手のひとりだ。(C) SOCCER DIGEST

 19節・川崎-浦和の一戦。川崎の登里享平は、サイドバックとしてさらに進化した姿をピッチ上で見せた。
 
 高校時代のトレードマークだった「弾丸ドリブラー」のスタイルとは違い、左SBとして常に守備のバランスに気を配るようになり、自慢のドリブルは『ここぞ』という場面にとっておく。いざその時が来たら、高校時代を髣髴させる鋭いドリブルを披露するのだ。
 
 浦和戦は、川崎が相手の布陣に合わせて3バックを敷いたため、登里は左ウイングバックとなったが、前線のレナトが左ワイドに張り出すポジショニングをとったため、ほぼSBのようにプレーをした。
 
「対面する平川選手をケアし、左CBの小宮山さんとの距離感を意識しながら、サイドでイニシアチブを握ろうと思った。そのためにはレナトの攻撃力をいかに生かすか。僕がインタセプトできれば、レナトが高い位置で勝負できる」
 
 レナトは守備力こそないものの、爆発的な攻撃力を持っている。本来は攻撃力がウリの登里だが、レナトの能力を最大限に引き出してプレーすることが、左SBとして自分を確立するひとつの術だった。
 
 当然、そこに至るまでは多くの葛藤があった。自分のプレースタイルを捨ててしまうのではないかという疑問や危機感が生じ、プレーに迷いが生まれる時もあった。しかし、登里はレナトを生かすために動くことが、自分に足りなかった守備力、試合の流れを読む力を養うことに気づき、さらに自分のスタイルを捨てるのではなく、タイミングを見て効率よく攻撃力を発揮することで、長所を生かすという術を身につけた。
 
 彼の高い献身性が、川崎の決勝弾を生み出した。1-1で迎えた78分、カウンターから左サイドの高い位置でボールを受けたレナトが、ドリブルで独走。中央の中村憲剛にパスし、中村の右へのラストパスから、大久保嘉人のシュートが決まった。
 
「浦和のウイングバックは守備の時にあまりついて行かないので、レナトが高い位置に行けばフリーになれると思った」
「たとえ自分の前で数的不利になっても、守りきれるように、自分のボディーバランスとスピードを生かして、駆け引きで相手を上回ろうと思っている。そうすればレナトは後ろを気にせず、攻撃に専念できる」
 
 プレーには直接関わっていないが、レナトを高い位置まで押し上げさせたのは、間違いなく登里の存在であり、決勝点もイメージ通りのものだった。
 
 そして試合終了間際には、ついに登里にもチャンスが巡ってくる。左サイドの高い位置にスルスルと上がっていくと、パスを受けて一気に縦にドリブル。強烈なシュートを放ったが、これはGKに阻まれた。
 
「最後は決めたかった。シュートはもっと練習しないといけないですね」
 
 試合後、こう語った登里の表情は、しっかりと自分のプレーをして、勝利に貢献できた手応えが現われていた。
 
「きちんと守れることが前提で、その上でドリブルができて、シュートが打てて、得点もアシストできるサイドバックになりたい」
 
 組織としての役割を取るか、自分のスタイルを取るか。葛藤の末に、自らの答えを掴んだ登里は、川崎に欠かせない存在として、これからも献身的かつアグレッシブに左サイドに君臨する。

取材・文:安藤隆人(サッカージャーナリスト)
みんなにシェアする
Twitterで更新情報配信中

関連記事