【J2】細部を突き詰める「反町イズム」が原動力 松本山雅は『弱くても勝てます』

2014年08月04日 熊崎敬

充実した闘争心と計算された試合運びは観る者を魅了した。

25節を終え、15勝6分け4敗の勝点51で2位につける松本山雅。3位の磐田とは勝点4差だ。(写真は5節の湘南戦) (C) SOCCER DIGEST

 J1昇格を左右する2位松本山雅と3位ジュビロ磐田の対決(J2・25節)は、1-1のドローに終わった。
 
 87分に追いつかれた松本は磐田との勝点差を7に広げるチャンスを逃したが、それでも敵地で負けなかったことは称賛に値する。
 
 J2昇格3年目の松本と、7度の3大タイトルを獲得している磐田とでは、伝統や地力が明らかに違う。
 
 磐田がJ1完全優勝を果たした2002年、松本は北信越リーグで10チーム中8位に低迷していた(前身の山雅サッカークラブ)。だれも知らない弱小クラブ。2012年に悲願のJ2昇格を果たすが、このとき監督に就任した反町康治は選手にタバコの害悪を説くところから指導を始めなければならなかった。
 
 だが松本はJ2昇格以降、12位、7位と着実に順位を上げ、今季はここまで2位とJ1自動昇格枠につけている。クラブの規模から考えれば、すでに快挙といって差し支えない。
 
 名古屋グランパスから移籍した地元出身の田中隼磨を除けば、松本はJ2でも出番がなかった選手たちの寄せ集めだ。日本代表、五輪代表、J1経験者がずらりと並ぶ磐田とは比較にならない。
 
 だが、この無名軍団が最後の最後まで磐田を苦しめた(得点者は岩上祐三)。
 
 鋭い出足と激しい当たりによってテクニックに勝る敵の攻撃を潰し続け、33分には敵のボールを奪うと一気に逆襲し、先制点を決める。
 
 出足が鈍った後半は磐田の猛攻にさらされたが、それでもボランチや3バックが身を呈してピンチを食い止めた。終盤の失点で惜しくも勝利は逃したが、充実した闘争心と計算された試合運びは観る者を魅了した。素晴らしいゲームだった。
 
 去年も今年もボール支配率はJ2最低レベル。それでも勝点が増えていく。
 サッカー版『弱くても勝てます』といっていい松本の快進撃は、反町監督の存在なしには考えられない。
 
 敵を丸裸にすることで、勝利を引き寄せる反町は、何事も徹底しないと気が済まない。中途半端は弱者である松本の最大の敵だと知っているからだ。
 
 以下は、多弁で知られる監督の試合後のコメントの一部。
「(磐田の)ペクやチンガは攻撃のスタートがはっきりしているんで、そこをどう抑えるかちゃんとやらないといけない。他のチームは残念ながらしっかりやっていないですよね。(今日は、それをしっかりやったことで)磐田にとってタイミングの悪いクロスになった。それはいい間隔を保ち、飛び込んだりしないで、顔を上げてクロスを上げる場面があまりなかったからですよ。だから我々は分析によっていい対応をしたかな」
 これだけで監督の性格がわかる。

次ページ「犬の散歩が怪しいんだ」と、スタッフにスパイへの警戒を呼びかける。

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