【現地発】ジダンがマドリーとペレスを見限った日。きっかけは「ベイルの2発」だった

2018年10月22日 エル・パイス紙

狂喜乱舞したペレス会長が土壇場で変心。

ジダン(右)の辞任は、突如考え方を180度変えたペレス会長(左)の身勝手が原因だった。(C)Getty Images

 2018年5月26日、キエフのオリンピスキ・スタジアムの貴賓席に陣取っていたレアル・マドリーのフロレンティーノ・ペレス会長は、歓喜に酔いしれていた。

 2013年夏に周囲の猛反対を押し切り、1億ユーロ(約130億円)もの大金を投じて獲得したガレス・ベイルが、リバプールとの対戦となったチャンピオンズ・リーグ決勝で2ゴールを挙げる大活躍を見せ、勝利(3-1)の立役者となったからである。

 ペレスはその貴賓席で、次のようにまくし立てたという。

「大舞台で違いを作り出すことにかけて、やはりベイルの右に出る者はいない! クリスチアーノでさえもだ! ベイルはただ周囲から理解されていないだけなんだ!」

 そして、ペレスの言う"ベイルへの理解"を示そうとしなかった代表的な人物が、他でもないジネディーヌ・ジダン前監督だった。このリバプール戦、ジダンはベイルをスタメンから外した。

「僕は毎週プレーする必要がある。でも、今シーズンはそれが叶わなかった。これからの進路について代理人としっかり話し合うつもりだ。今日のベンチスタートには失望した。僕にはスタメン出場の資格があると思っていたから、余計にね」

 みずからの活躍でチームが勝利したにもかかわらず、ベイルは試合後、こう不満を漏らした。
 
 たしかに2017‐18シーズンのCLにおいて、決勝トーナメント以降のゲームでベイルがスタメンに名を連ねたのは、ユベントス戦(準々決勝)の第2レグのみだった。もうすでにその頃から、怪我がちな体質に加え、ワンマンかつイレギュラーなプレーを繰り返すベイルに対するジダンの信頼は失墜していた。

 事実、このフランス人監督は、そうした中途半端な起用を続けながら、フロントにシーズン終了後のベイル売却の必要性を繰り返し訴えていた。

 パリ・サンジェルマンのネイマール獲りに執心するペレス会長も、今年1月の時点では「資金調達のためにベイルの売却はやむなしか」という考えを持っていた。獲得候補には、ネイマールの他にもエデン・アザール(チェルシー)、ハリー・ケイン(トッテナム)、モハメド・サラー(リバプール)ら複数の名前が挙がっていたが、ベイル売却についてはジダンとペレスの間で合意が得られているはずだった。

 しかし、前述のCL決勝でのベイルのパフォーマンスに狂喜乱舞したペレス会長が土壇場でまさかの変心。慰留のため、本人に直接電話をかけるほどの入れ込みようだった。オフレコでは、代わりにクリスチアーノ・ロナウドを放出要員にし、ネイマールとベイルによる2トップ形成の実現の野望を嬉々として語っていたという。

 事前に何の相談もなしに180度の方針転換の知らせを聞いたジダンは大激怒。そして新シーズンに向けた補強戦略のために設けられていた話し合いの席で、辞任の意思を伝えた。

 その後ペレス会長が、ネイマールの獲得から撤退せざるを得なかったのは周知の通り。ユベントスに移籍したC・ロナウドに代わるチームの旗頭として祭り上げられたベイルは、ラ・リーガのアトレティコ戦(7節)とアラベス戦(8節)でミステリアスな途中交代を繰り返すなど、チームは苦境に喘いでいる。


文●ディエゴ・トーレス(エル・パイス紙/レアル・マドリー番記者)
翻訳:下村正幸
※『サッカーダイジェストWEB』では日本独占契約に基づいて『エル・パイス』紙の記事を翻訳配信しています。
 

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