「僕は人生を二回やり直した…」 CL出場を叶えた元横浜CBデゲネクが“故郷”への複雑な想いを激白

2018年09月29日 サッカーダイジェストWeb編集部

バルカンの内戦を生きたオーストラリア代表DF

今夏からレッドスターでプレーするデゲネクは、今やチームに欠かすことのできない主力に。そんなオーストラリア代表DFが、“故郷”への想いを明かした。 (C) Getty Images

 今年8月29日に行なわれたチャンピオンズ・リーグ(CL)の予選プレーオフ第2レグ、セルビアの古豪レッドスターは、強敵レッドブル・ザルツブルクを退け、チャンピオンズ・カップ時代を含めて26年ぶりに本大会への切符を掴んだ。

 クラブにとって悲願だったCL出場を成し遂げた一戦でヒーローとなったのが、今夏に横浜F・マリノスから移籍してきたオーストラリア代表DFのミロシュ・デゲネクだ。2点のビハインドを背負った65分に右足からのクロスでアシストを記録すると、直後の66分には、自ら渾身のヘディングシュートを決めたのである。

 そんなデゲネクは、CLに並々ならぬ想いを抱いて出場している。英公共放送「BBC」の取材に応じた際、「セルビアのサッカーが死んでいないことを、世界に見せつけられる。レッドスターはまだ生きていて、戦える」と誇らしげに語るとともに、"故郷"への感情を吐露した。

 1994年4月28日に生まれの23歳であるデゲネクは、今でこそオーストラリア代表としてプレーしているが、そのルーツは東欧にある。というのも、両親がセルビア人で、自身はクロアチア出身だからだ。

「七つの国境、六つの共和国、五つの民族、四つの言語、三つの宗教、二つの文字、一つの国家」と例えられた複雑な国家形態を持つ旧ユーゴスラビアで1991年に勃発した分離独立をめぐる戦争の最中に、彼は生まれた。

 その後、オーストラリアへ亡命したデゲネクは、「政治は好きじゃない」と語りつつ、内に秘めてきた"故郷"への想いを口にした。

「僕は人生を二回やり直した。そして今、ここに戻ってきた。ここは故郷だが、故郷ではない。そんな複雑な感覚だ。あまり考えすぎるのは好きじゃないが、2つの宗教、2つの民族による、意味を持たない戦争だったと思う。全て政治的な理由であり、僕はそこに踏み込みたくない。好きじゃないね。政治は好きじゃない。

 戦争は多くの損失をもたらした。何より多くの人々が命を失い、家を失った。クロアチア人も、セルビア人も、イスラム教徒もだ。誰もが人生を台無しにされ、親族や友人を殺された。何もかも失ったんだ」

 しかし、ドイツの1986ミュンヘンと横浜でのプレーを経て、再び祖国に戻り、そこでの生活を選択した。それは単に、欧州での飛躍を狙ったからではない。「美しい未来のため」である。

「誰もが前に進み、より大きく、より良いものを見たがっている。そんな将来を見て、過去を忘れようじゃないか。美しい未来を作ろうと努力すること。子どもたちには、それについて話したい。そうすれば、悪いことについては話さなくてもいいようになる。彼らには平和で、前向きで、良い環境の中で育ってほしい」

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