【番記者通信】スアレスのハッピーな変貌|リバプール

2014年03月06日 ジェームズ・ピアース

ジェラード欠場の試合でキャプテンマークを。

23試合で24ゴールを量産し、チームを優勝争いに導く大活躍。移籍騒動から一転、笑顔のスアレスが止まらない。 (C) Getty Images

 その変貌ぶりには、ただ感嘆するしかない。そう、ルイス・スアレスだ。なにしろ、あれはたった6か月前の出来事だったのだ。移籍志願を公言したために、チームへの合流を禁じられ、ひとりトレーニングをしていたのは、今シーズンの開幕前だった。「約束を守らない男」とまで、ブレンダン・ロジャース監督をこき下ろした。

 リバプールとスアレスの契約書には付帯条項があった。チャンピオンズ・リーグ(CL)出場権を持つクラブから4000万ポンド以上(約64億円)のオファーがあれば、リバプールはスアレスの移籍を容認するというものだ。ところが、リバプールはアーセナルからの4000万1ポンドのオファーをぴしゃりと撥ねつけ、断固として移籍を認めなかった。スアレスが怒り心頭に発し、頑なな態度を取ったのは、だからである。

 それから6か月が経ち、状況は激変した。2月下旬、私はスアレスの単独インタビューに成功した。夏のゴタゴタ以来、新聞社の個別取材に応じたのはそれが初めてだった。メルウッド(リバプールの練習施設)の小さな一室で対面したスアレスは、半年前の出来事がまるで嘘のような、ハッピーでリラックスした様子だった。

「リバプールでも目標を達成できると思う」
 スアレスは笑った。
「俺が苦しんでいたのは誰もが知っている。サポーターに助けられたよ。彼らの声援は心の中に深く残っている」
 昨シーズンから持ち越した出場停止処分(チェルシーのDFブラニスラフ・イバノビッチの腕に噛みつき10試合の出場停止に)が10月に明け、クリスタル・パレス戦で本拠地アンフィールドに戻ったその時のファンの歓声が、いまでも忘れられないと言う。生まれたばかりの息子ベンジャミン君と3歳の愛娘デルフィナちゃんとともにピッチに現われたスアレスを、KOP(リバプールサポーターの呼称)は熱烈に迎えた。すべてを水に流し、俺たちのために活躍してくれ――。そんなサポーターの思いを、彼は意気に感じたのだ。

 28節終了現在、スアレスはプレミアリーグで24ゴールを量産。得点王争いのトップをひた走り、チームを2位に押し上げている。今シーズンのリーグMVPは、もはやスアレスで決まりだろう。

 インタビューでは、メンタル面にも話が及んだ。好調だから試合中も落ち着いていられると、そんな好循環を告白した。事実、ここまでカードはイエローが4枚のみ。判定に不服があっても、笑ってやり過ごす大人な対応を見せている。

 昨年12月には契約を更新した。スティーブン・ジェラードが怪我で欠場した試合ではキャプテンマークを巻いた。ロジャース監督からの信頼の証である。


【記者】
James PEARCE|Liverpool Echo
ジェームズ・ピアース
地元紙『リバプール・エコー』の看板記者。2000年代半ばからリバプールを担当し、クラブの裏の裏まで知り尽くす。辛辣ながらフェアな論評で、歴代の監督と信頼関係を築いた。

【翻訳】
松澤浩三
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