【ブンデス現地コラム】 数年で9部から1部へ昇り詰めた学生FW! ハノーファー発の素敵な「おとぎ話」

2018年08月31日 中野吉之伴

浅野との交代出場から81秒後のゴール!

一躍、ハノーファーの主役に躍り出たヴァイダント。どこまで上昇していくか、非常に楽しみである。 写真はハノーファー公式サイトより

「サッカー界にしかない物語」
 
『ビルト』紙は、そう見出しをつけた。大袈裟にも聞こえる。でも、全く嫌な感じはしない。
 
 物語の主人公は、ハノーファーのFW、ヘンドリク・ヴァイダント。舞台はブンデスリーガ第1節のブレーメン対ハノーファーだ。
 
 開幕戦独特の緊張感のなか、どちらのチームも決定打を欠き、終盤を迎えていた。ここでアンドレ・ブライテンライター監督が動く。その決断が、試合を動かすこととなった。
 
 75分、ヴァイダントは浅野拓磨と交代。そのわずか81秒後だった。目の前にこぼれてきたボールに慌てることなく、飛び出してくるGKイジー・パブレンカの動きに惑わされず、冷静に股間を抜くシュートでゴールを決めたのだ。
 
 仲間が駆け寄り喜びを爆発するなか、ヴァイダントは驚いたように立ち止まった。
 
 無理もない。4年前まで、彼はどこにでもいる、普通のアマチュアサッカー選手だったのだ。当時所属していたのは9部リーグのクラブ。テレビの前でスター選手のプレーに一喜一憂していた彼が今、スタジアムで歓喜の輪の中心にいる。
 
 どのようにして1995年7月16日生まれの23歳の青年は、階段の一番下から上まで昇り詰めたのだろうか。
 
 ミュンツェルというクラブで、195センチという長身ながら俊敏な動きで相手マークを外し、精度の高いシュート技術でゴールを量産した彼は2014年、その活躍を耳にした4部リーグのエゲシュトルフに迎えられる。そもそも、9部から4部への移籍というのも、そうめったにある話ではないのだが、彼はここでも得点を重ねていく。
 
 そして今シーズン、同じく4部所属のハノーファーU-23へと移籍。月収は400ユーロ(約5万2000円)から3000ユーロ(約39万円)にアップした。
 
 成長は止まらない。プレシーズンでトップチームに早速抜擢されると、プレシーズンで8ゴールを挙げる活躍を見せ、瞬く間にファンやチームメイト、そしてコーチングスタッフの信頼を勝ち取って、DFBカップ1回戦のカールスルーエ戦では、途中出場から見事なシュートで2得点をマークした。
 
 ブライテンライター監督は、「サッカーが書いてくれた素敵な物語だ。ヘンネ(ヴァイダント)は今日、世界で最も幸運な人間だろう。みんな、彼と一緒に喜んでいるよ」と話していた。

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