稲垣祥vsイニエスタ――首位を牽引するボールハンターが"あえて"距離を取って対応した理由

2018年08月16日 志水麗鑑(サッカーダイジェスト)

「飛び込まないように対応していました」

稲垣vsイニエスタのマッチアップは極上のバトルだった。写真:徳原隆元

[J1リーグ22節]神戸1-1広島/8月15日/ノエビアスタジアム神戸
 
 1-1で引き分けたアウェーの神戸戦でも、広島の稲垣祥は果敢にボールを奪いに行った。それはマッチアップしたアンドレス・イニエスタに対しても同じだった。

 6分、自陣の左サイドでパスを受けたイニエスタに対し、稲垣が猛然とプレスをかける。すると、元スペイン代表MFはボールを隠すように後ろにターンするが、広島の堅守を支えるボールハンターが食らいつく。惜しくもファウルになったものの、J屈指のボール奪取を見せつける意気込みを感じさせた瞬間だった。
 
 その後も稲垣は14分にウェリントンからボールを狩り取って、カウンターにつなげるなど、潰し屋としてさすがの存在感を示し続けた。
 
 しかし、イニエスタに対してだけは対応が変わった。17分にスーパーミドルを決められてから、稲垣がイニエスタへ寄せる距離は遠くなることが多くなったのだ。それは時間が過ぎるごとに強まり、広島の背番号15にしては珍しい距離感で、世界的名手へ対応していた。その理由を稲垣が説明してくれた。
「結構、思ったよりも、こっちの動きを見ながら駆け引きをしてくる感じがあった。誘ってくる感じだったから、飛び込まないように対応していました」
 
 駆け引きをして誘ってきて、飛び込めば交わされるかもしれない。そう感じた稲垣はある程度の距離を取って対応していたようだ。さらに、イニエスタのポジショニングに関しても、感じることがあったと稲垣は話を続ける。
 
「集中力の高さが90分間、必要になる。彼がどこにポジションをとって、どういうことをしようとしているのか、常に把握しなければならなかった。それを相手に考えさせるだけでも、凄さはあるなと思いました」
 
 豊富な運動量と球際の激しさが持ち味の稲垣だが、コメントから察するに、イニエスタとのマッチアップで頭もいつも以上に疲弊したようだった。
 
 ただ、ドローに終わった首位チーム対タレント軍団の好ゲームのなかで、J屈指のボールハンターとワールドクラスのパサーのマッチアップはスペクタクルに満ちていた。なかなか見られない、高度な駆け引きの面白さを提供してくれたと言えるだろう。
 
取材・文●志水麗鑑(サッカーダイジェスト編集部)
 
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