F・トーレスはシュート0本でも脅威?浦和戦のワンプレーに隠された見逃せない"トーレス効果"

2018年08月12日 轡田哲朗

「あの時は浦和の守備陣がフッとF・トーレスのほうに引き寄せられた」(小野裕二)

F・トーレスがマークを引き付けることで、他の選手がフリーになる機会が増えているという。写真:徳原隆元

[J1リーグ21節]鳥栖1-0浦和/8月11日/ベアスタ

 鳥栖に加入してから4試合目の出場になったフェルナンド・トーレスは、11日のJ1リーグ21節の浦和戦でシュート0本に終わった。チームはセットプレーから得点して1-0で勝利し、F・トーレス自身も「重要なのは勝利したこと」と話したが、スペイン代表としてEUROやワールドカップのタイトルを獲得してきたストライカーの本領を発揮できたとは言い難かった。
 
 とはいえ、ピッチに立っていた意味はしっかりとあった。浦和のGK西川周作が「ありがちなこととして」という前置きの上で話したのは、「トーレス選手に注目が集まることで、他の選手が空いてしまう」ということだった。その現象は、実際に鳥栖の小野裕二が金崎夢生にラストパスを通した42分のシーンに表れていた。
 
 小野は該当した場面について、「あの時は浦和の守備陣がフッと彼(F・トーレス)のほうに引き寄せられる形になって、パスを通せた」と振り返った。中央のやや左サイドで小野にボールが渡った時、F・トーレスは小野の左前方にプルアウェーする動きを見せた。そこで小野は逆に動いた金崎にパスを通し、チャンスを演出している。
 
 F・トーレス自身が「日本に来て3週間くらいで、コンディションは日に日に良くなっている」と話すように、トップコンディションとは言い難いものがある。それでも、F・トーレスという"磁石"が相手を引き付けることで周囲の選手にチャンスが生まれるのだから、ピッチに立つ意味と価値は今の時点でも示していると言えるだろう。これは、ビッグネームを補強した時に得られる効果のひとつと表現できるものだ。
 
 もっとも、この試合は90分間を通してあまりにも浦和にボールを握られてしまっただけに、小野も「彼に良い形でボールを入れられなかった」と話すような試合だった。足下のグラウンダーが入った時には良い間合いでプレーする場面が数回あったが、ロングボールのターゲットになる場面では浦和の3バックに厳しい寄せを受けて前を向く場面はほとんどなかった。原川力はトーレスについて「常に裏を狙っている」と印象を話すだけに、F・トーレスがゴールに背を向けるのではなく、ゴールに向かうプレーを周囲がどれだけ引き出せるかだろう。まだまだJ1残留争いを考えれば危険な順位にいるだけに、F・トーレス自身にも周囲にもかけることが許されている時間は決して長くない。
 
 そのためには、最終ラインからではなく原川らの中盤から生きたボールがより多く前線に入ることが必要だろう。そのうえで、前線を構成するトライアングルの共通理解とコンビネーションが深まれば、小野が「今でも楽しいですけど、もっと楽しくなると思いますし、サポーターをもっと楽しませることができるはず」という言葉も現実のものとなるはずだ。
 
取材・文●轡田哲朗(フリーライター)
 
みんなにシェアする
Twitterで更新情報配信中

関連記事