ドイツ 7-1 ブラジル|悲劇的な終焉…攻守の両輪を欠いたブラジルが記録的大敗

2014年07月09日 熊崎敬

02年決勝の雪辱を果たす大勝でドイツがファイナルへ

 64年ぶりのブラジルでのワールドカップは、悲劇的な終焉を迎えた。いや、大会はまだ3試合を残している。ブラジルだって3位決定戦を残している。大会は続くのだ。
 
 だが終わった。パーティーは終わってしまったのだ。
 
 1950年は悲劇だった。ブラジルは破竹の快進撃を続け、誰もが優勝を確信していたからこそ、敗北が悲劇と呼ばれることになった。だが、2014年は悲劇にすらならなかった。グループリーグから1試合もブラジルらしく勝てなかったブラジルは、準決勝でドイツに叩きのめされた。
 
 今日、宿を出るときに、フラメンゴ主義者のスタッフが「たぶん負けるよ」と言っていた。「勝つよ」と口にするサポーターも、もちろん多い。だが、5度の優勝を経験したブラジルの人々は、この大会のセレソンに物足りなさを覚えていた。楽天的な言葉を口にしても、心のどこかで敗北を受け入れる準備ができていたのだ。だから6万人近くを飲み込んだミネイロンは、国辱的な大敗にもかかわらず大荒れにならなかった。
 
 いまのブラジルは、ネイマール、チアゴ・シウバがいたとしても、ドイツに勝つのは難しいだろう。守らなければ勝てないのは、誰の目にも明らかだった。美しく攻めて勝つセレソン理想の試合ではなく、コリンチャンスがクラブワールドカップでチェルシーを相手にやってのけたような、粘りと抜け目なさの勝負を繰り広げなければ勝機は見出せない。
 
 だが指揮官ルイス・フェリペ・スコラーリは、なぜか攻める道を選んだ。ボランチを3枚置くのではなく、ネイマールの代役として攻撃的MFベルナールをピッチに送り込んだ。それが記録的な大敗を招いた。
 
 セレソンは左サイドから攻め込むたびに面白いようにカウンターを食らい、2点目を失ったところで選手は頭の中が真っ白になってしまった。観客たちも、あっさりと敗北を受け入れ始めた。
 
 それはそうだろう。ネイマールがいないセレソンには、センターバック以外に得点を期待できる選手がいないからだ。
 
 前日、ベロオリゾンテの新聞に、こんな記事が載っていた。
「働かないフレッジの代わりは誰がいい?」
1)37歳のロナウド
2)73歳のペレ
3)「元皇帝」アドリアーノ
 他にも選択肢があったが忘れた。
 年老いたペレをプレーさせた方がいいと思えるほど、フレッジは働いていない。だが、控えのジョーも期待できないため、フレッジはピッチに立ち続けることになった。彼が力のないシュートを撃つたびに、ファンはブーイングを浴びせるようになった。
 
「背番号9は役立たずだ。ネイマールのいない、このセレソンは点を取れない」
 ファンも選手もみんな、そのことを知っているから、2点を失ったところで切れてしまった。それからは練習を見るかのような、ドイツのゴールラッシュが続いた。
 
 先に失点したら、ゲームは半ば終わってしまう。そのことが明らかなのに、どうして監督は攻めようとしたのだろう。本稿を書いているいま、おそらく記者会見で監督の糾弾が行なわれているはずだ。
 
 試合が終わって30分以上経ったというのに、スタジアムではドイツ人たちが勝利の凱歌を上げつづけている。いつの間にか、ブラジル人たちは消えてしまった。
 
 ワールドカップは、もう少しだけ続く。でも、パーティーは終わってしまった。
 
取材・文:熊崎敬
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