【小宮良之の日本サッカー兵法書】“局面の小さな勝利”で構成される「最も大番狂わせの多い球技」

2018年07月26日 小宮良之

強力なチームが必ず勝つわけではない

サイドアタッカーの強みを十二分に活かした乾。ここからの仕掛けが、強大な敵の守備の壁に綻びを生じさせ、崩壊を招く。 (C) Getty Images

 11人対11人のチーム同士がぶつかり合う。
 
 当たり前のことだが、サッカーとはそういうゲームである。
 
 スタート時点では、敵は真正面から向かってくるもので、力と技を駆使し、お互いが対抗する。キックオフ直後でも、奇襲的にゴールまで辿り着けることもないではないが、まずはぶつかり合いが生じ、小手試しのような展開になるのが普通だ。
 
 そこで、もみ合いながら、離脱し、密集し、ボールを巡る争いを演じる。その上で生じた戦力差によって、「勝負の天秤」は傾くものと言えるだろう。
 
 ロシア・ワールドカップで自国開催の1998年大会以来となる2度目の優勝を飾ったフランスは、まさにそうした総力戦、物量戦を得意とするチームだった。
 
 ポール・ポグバ、エヌゴロ・カンテ、ブレーズ・マテュイディのような屈強な戦士を中盤に並べ、それを突破されても、サミュエル・ウンティティ、ラファエル・ヴァランヌが最終ラインで弾き返し、相手を引き込み、消耗させたところで、前線のアントワーヌ・グリエーズマンに繋げ、キリアン・エムバペを走らせ、勝負を決めた。
 
 フランスのフィジカルをタクティクスに落とし込んだサッカーは、他国を凌駕するものがあった。
 
 ところが、そうした強力なチームが必ず勝つわけではないところに、サッカーというゲームの面白さはある。
 
「大番狂わせ」
 
 球技のなかでそれが一番多いのがサッカーといわれる。常に強者が下馬評通りに勝つわけではない。
 
「小さな局面の勝利を、全体に繋げる」
 
 兵法の基本だが、それによって波乱は起きる。
 
 そこで真っ先に重視されるのは、サイドアタッカーだろう。相手の守備陣はタッチラインまでのスペースを埋め切ることはできない。そして、サイドアタッカーのいる位置は相手守備陣形の脇口にあたるため、横撃を加えやすい。
 
 そして、サイドから中央に侵入することができたのなら、相手を混乱させ、それが突破口になる。まさに「小さな戦い」が「大きな戦い」を有利に動かすのだ。

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