「素晴らしい物語の第一歩にすぎない」完敗も2万人を心酔させた“巨星”イニエスタの十分すぎる挨拶

2018年07月23日 羽澄凜太郎(サッカーダイジェストWeb)

随所で見せた“らしい”プレーに観客が沸く。

惜しくも得点を生み出せなかったものの、イニエスタは、「まだまだこれから」というコンディションで十分すぎるパフォーマンスを披露した。 写真:茂木あきら(サッカーダイジェスト写真部)

[J1リーグ17節]神戸 0-3 湘南/7月22日/ノエスタ

 ついにヴィッセル神戸の一員として、元スペイン代表MFアンドレス・イニエスタがJの舞台でベールを脱いだ。

 この試合を前にした会見で、「どこかのタイミングでは絶対に使う」と語った吉田孝行監督の言葉通りにイニエスタに出場機会は訪れる。チームが停滞していた59分、渡邉千真に代わってピッチに送り出された。

 ピッチサイドに姿を現わした瞬間から本拠地ノエビアスタジアム神戸に詰めかけた今季最多の2万6146人の観衆を沸かせ、ワールドクラスのスターたる所以を見せつけたイニエスタは、さらにプレーでも妙技を披露する。

 4-3-3の左インサイドハーフに入ったイニエスタは、ファーストタッチで、軽やかに相手をいなして前を向く。これだけで大歓声を受けるあたりは、流石の期待値の高さだ。
 
 チームが3失点目を喫してからも、イニエスタは、慌てず、そして騒がない。下がってボールを受けては、的確に散らし、ウェリントンや田中順也の動きを引き出した。また、相手のプレスが緩んだと見るや、ヒールパスで相手DFの意表も突くなど、ファンの心をくすぐる"らしい"プレーを随所で見せた。

 いずれのプレーも残念ながらゴールには繋がらず、チームも0-3と完敗した。しかし、イニエスタが、この試合の主人公であったことは、前述の観客動員数、自身のネーム入りTシャツが1日で1000枚を売り上げ、神戸グッズ担当者が記者室の白板に「超異例」としたことからも理解できた。

 そんな試合後、イニエスタは、「僕、個人としては、今日デビューできたこと、それからこれだけの観客に見守られたことは嬉しく思う」と安堵の言葉を話すと同時に、悔恨の念が滲み出した。

「チームは残念ながら負けてしまった。僕は負けることが大嫌いだから本当に悔しい」

 とはいえ、まだ来日して5日、チーム練習に合流してからは2日足らずだ。負けず嫌いの34歳は、「今日がこれから始まる素晴らしい物語の第一歩にすぎない」と、この先の戦いを見通している。

「まだリーガとJリーグの違いを分析するのは早いと思っている。適応や変化の時だ。ただ今日、プレーした感想は、Jリーグにはアビリティーが高い選手が多くて、質の高いレベルにあると感じた。まだこれから身体の調子を上げて、良いプレーをできるようにしていきたい」

 最後に、「何パーセントかは分からないけど、自分はまだトップレベルの状態にない」と自身のコンディションについても明かしたイニエスタ。例年以上の酷暑にも慣れ、神戸のスタイルにも馴染めば、間違いなく今以上の活躍ができる――スペイン・サッカー界が誇る天才は、たった一晩で、そう確信させるだけの十分な"挨拶"を見せた。

【特集PHOTO】神戸のイニエスタ、ついにJリーグのピッチへ!

取材・文●羽澄凜太郎(サッカーダイジェストWeb編集部)
 
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