なにもかもが桁外れだったフランス代表の凱旋ドキュメント。大統領宮殿では抱腹絶倒の展開が…

2018年07月17日 結城麻里

そして選手たちは「シャンゼリゼ」を望んだ

大統領宮殿で自慢のラップを披露するポグバ(左端)。その横で意外にもノリノリのデシャン監督。さらにその傍らでマクロン大統領が……兎にも角にも大盛り上がりだった。(C)REUTERS/AFLO

 ワールドカップのトロフィーを掲げたフランス代表が、7月16日夕方に帰国した。フランスでは興奮した若者たちがあらゆるしきたりを破って、前代未聞の光景を繰り広げた。

 レ・ブルー(代表チームの愛称)を乗せたエールフランス機は、16時43分に着陸。するとパリ消防団の赤い消防車2台が、真っ青な空にシャンペンならぬ水を放水してアーチを作り、その下を飛行機が通った。

 やがて飛行機から、トロフィーを手にしたユーゴ・ロリス主将、ディディエ・デシャン監督、ノエル・ルグラエット連盟会長が登場。その後、アントワーヌ・グリエーズマンとポール・ポグバらが続いた。一行は空港で、「シャンピオン・デュ・モンド(ワールドチャンピオン)」の大文字とふたつの星が描かれた青いバスに乗り込み、一路シャンゼリゼ大通りへ向かった。

 実は、政府内ではセキュリティー上の懸念から、シャンゼリゼを避けてエッフェル塔下に集まろうという案も出た。だが選手たちが断固、1998年の初優勝と同じシャンゼリゼを通っての凱旋を要求したという。

 シャンゼリゼ通りは朝から人波で埋まった。レ・ブルーは19時7分に隣の通りに待機していた大型オープンバスに乗り換え、選手たちは2つ星のTシャツに着替え、「シャンピオン・デュ・モンド」と織り込まれたマフラーを首や頭に巻きつけた。

 そして、19時20分に凱旋門が聳えるエトワル広場にゆっくり突入し、シャンゼリゼを走行し始める。すると大観衆は青白赤の発煙筒を焚き始め、熱狂の嵐が巻き起こった。その光景は、まるで革命を描いたドラクロワの絵画か、パリ解放を切り取ったロバート・キャパの写真のようだった。

 空にはパトロール航空隊のジェット機8機が出現した。青白赤の雲を吐きながら滑空し、さらに遠くでUターンすると、4機ずつに分かれて2つの星の陣形を作り、2度目の優勝を祝った。シャンゼリゼ上空はフランス国旗のトリコロール、青白赤に染まった。

 

 選手たちを乗せたオープンバスでは、デシャンが穏やかに手を振り、広報部長のフィリップ・トゥルノン氏とキリアン・エムバペは2人で「シャンピオン・デュ・モンド」のマフラーを広げ続けた。ラファエル・ヴァランヌはトロフィーを掲げ、ポール・ポグバはバスの車体を叩いていた。

 1998年は人波の真ん中をバスが進んだが、今回はセキュリティーへの配慮からバス用の通路が確保された。走行スピードがやや速すぎたのが難点だが、大観衆はレ・ブルーを携帯で撮影し、レ・ブルーは大観衆を携帯で撮影するという、98年には見られなかった光景が創出された。

 レ・ブルーはやがてシャンゼリゼから大統領宮殿に到着し、Tシャツから正装(スーツ)に着替えた。するとここで、信じられない光景が……。若者たちは、大統領宮殿のしきたりをことごとく破壊する行ないに出たのだ。

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