「エムバペは世界一の選手になる」確信した理由はジダンやピルロにも通じる“俯瞰の世界”【ロシアW杯】

2018年07月12日 白鳥大知(ワールドサッカーダイジェスト)

まるでジダンやピルロ、シャビを見ているかのようだった。

爆発的なスピードばかりが注目されがちなエムバペだが、もっとも厄介なのは状況判断の良さや視野の広さだろう。(C)Getty Images

 ロシアW杯でキリアン・エムバペを生で見たのは、7月10日のベルギー戦(準決勝)が3度目だった。途中出場だった6月26日のデンマーク戦、2ゴールを挙げた6月30日のアルゼンチン戦で得た感触は、もはや確信に変わった。

 この怪童は近いうちに世界一のプレーヤーになる――。

 CKからサミュエル・ウンティティが叩き込んだヘディングシュートでフランスが1-0で勝利したベルギー戦は、ゴールやアシストを記録していない。しかし、エムバペの存在感は誰よりも際立っていた。

 サッカー界屈指と謳われるスピードは文字通り爆発的で、そのトップスピードでもボールコントロールがほとんどブレないのも相変わらず。いつもよりチームの堅守速攻志向が強かったこの日は、従来よりも右サイドの高めの位置に残って、持ち前のダッシュとテクニックで敵守備陣を何度も翻弄した。

 とはいえ、おそらくスピードやテクニック以上に相手にとって厄介なのが、状況判断の良さと視野の広さだろう。ドリブル、パス、シュートの使い分けがとにかく的確なのだ。
 

 会場となったサンクトペテルブルクの記者席はスタジアムのかなり上段にあるので、試合中に「あっ、あそこに出すとチャンスになる」と思うことが何度もあった。ボールにフォーカスしがちなテレビ観戦以上にピッチが俯瞰で見えるのは、いわば当たり前である。

 するとエムバペは、いつもそこにパスを出す。何度もドキッとした。ピッチで平面の世界にいるはずなのに、俯瞰の世界でプレーしているかのようなのだ。まったくタイプが異なる選手だが、まるで往年のジネディーヌ・ジダンやアンドレア・ピルロ、シャビを見ているかのような感覚になった。

 37分のゴール前でのワンタッチパス、40分のバンジャマン・パバールへのスルーパス、57分の右サイドからのクロス、その直後のペナルティーエリア手前のヒールパスなど決定機に繋がったプレーは、"俯瞰の世界"に生きるエムバペの真骨頂だろう。

 まだプロデビューから2年半の19歳。あれだけスピードとテクニックに恵まれていれば、独力での強引な仕掛けに溺れていても不思議ではないキャリアと年齢である。末恐ろしい才能とパーソナリティーだ。

 今大会はリオネル・メッシとクリスチアーノ・ロナウドによる2大スターの時代が終焉を予感させ、その後継者の筆頭候補だったネイマールも精神的な未熟さを露呈した。スピード、テクニック、状況判断と三拍子揃ったエムバペは、間違いなく彼ら3人をぶち抜き、「世界一のプレーヤー」になる資格を擁しているだろう。

 その試金石となるのが、7月15日のW杯決勝だ。20年前の同じ舞台では、ジダンが2ゴールを挙げてフランスを史上初の戴冠に導き、「世界最高の選手」の定評を確立した。奇しくもその1998年に生まれたエムバペが、偉大なる英雄と同じ足跡を辿っても何ら不思議はない。

取材・文:白鳥大知(ワールドサッカーダイジェスト編集部)
 
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