先制FKも実らず、涙に暮れたトリッピアー。「僕はずっと右足を磨いてきた」【ロシアW杯】

2018年07月12日 サッカーダイジェストWeb編集部

クラブで直接FKを蹴る機会はほぼ…

先制点を挙げるヒーローから一転、最後は負傷交代で悲運のキャストに。トリッピアーは溢れ出る涙を抑え切れなかった。(C)REUTERS/AFLO

 世界中が、その右足に驚嘆した。
 
 ロシア・ワールドカップ準決勝、イングランドvsクロアチア戦。立ち上がりの5分に先制点を挙げたのは、イングランド代表の小兵キーラン・トリッピアーだった。ゴール正面20メートルの位置から放った直接FKは、壁を越えて鋭く落ち、鮮やかにゴールネットに突き刺さる。名手ダニエル・スバシッチも触れない美弾だった。
 
 しかし、一世一代の一発もチームの勝利には繋がらなかった。チームはその後クロアチアに追いつかれ、延長戦でマリオ・マンジュキッチに逆転弾を決められてしまう。トリッピアーは延長後半の115分に右足太ももの内側を傷めて負傷退場、交代枠を使い切っていたイングランドは10人で同点ゴールを追わなければならなくなった。
 
 自身への不甲斐なさからか、ベンチで大粒の涙を流したトリッピアー。スリーライオンズは52年ぶりのファイナル進出を逃した。

 
 クロアチア戦で完璧なショットを決めた27歳だが、プレミアリーグを代表するFKのスペシャリストというわけではない。所属するトッテナム・ホットスパーではほぼ蹴る機会がないからだ。チームにはデンマーク代表の至宝クリスティアン・エリクセンがおり、リスタートのメインキッカーを務めている。ほかにもハリー・ケインやエリク・ラメラもFKキッカーを担う。
 
 だがイングランド代表のガレス・サウスゲイト監督は、トリッピアーの右足を高く評価し、アシュリー・ヤングとの2枚看板でリスタートのキッカーを託してきた。今大会のスリーライオンズはセットプレーから数多のゴールを奪い、快進撃の源となっている。クロアチア戦での先制FKも、目利きの指揮官の重用がもたらしたシーンと言っていいだろう。
 
 兎にも角にも、トリッピアーは遅咲きの努力家だ。ユース年代はマンチェスター・シティの下部組織で英才教育を受け、年代別のイングランド代表にも常に名を連ねる超エリートだった。だがシティのトップチームでは出場機会が訪れず、チャンピオンシップ(実質2部)のバーンズリー、バーンリーに武者修行に出される日々。結果、シティには戻れないまま2012年1月にバーンリーへ完全移籍。21歳の時だった。
 
 このバーンリーでの日々がトリッピアーをスターダムへと押し上げる。持ち前の機動性能で攻守両面に右サイドで異彩を放ち、元来の鼻っ柱の強さもあって、チームに闘争心を植え付けるムードメーカーに。当時量産していたのが直接FKでのゴールで、ディビッド・ベッカムを彷彿させる低い弾道の高精度クロスから、数多のゴールをお膳立てしていた。
 

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