自分は窮屈な人間。カザンでそう思い知らされたある出来事【ロシアW杯/コラム】

2018年06月18日 白鳥和洋(サッカーダイジェスト)

カザンの街を占拠したオーストラリアのサポーター

フランス戦前のオーストラリアのサポーター。写真:Getty Images

 日本代表のベースキャンプ地であるカザンでは、日本人サポーターをほとんど見かけない。当然と言えば当然だろう。まず、日本代表のトレーニング場の警備を掻い潜るのはほぼ不可能だ。メディア関係者でさえ、その練習場に入る前に「携帯電話のスイッチをオンにして見せて」、「傘を広げてみて」など厳重なチェックを受けるのだ。この"検問"をパスするだけでも一苦労なのである。
 
 それにカザンでは残念ながら日本の試合がない。日本人サポーターと高い確率で出会うのは、サランスク、エカテリンブルク、ヴォルゴグラードと、それぞれコロンビア戦、セネガル戦、ポーランド戦が行なわれる都市だ。
 
 とにかく、滞在期間中ここまではカザンで日本人旅行者に会ってない。滞在2日目の6月15日、同じアジア勢でもカザンの街を占拠し始めていたのはオーストラリアのサポーターだった。ホテル内、クレムリンへと続くストリート、バー、レストランと至るところに黄色いユニホームを着た老若男女が笑顔で騒いでいた。
 
 翌16日にはフランス対オーストリアの一戦がカザン・アレーナで行なわれる。その前夜祭を彼らは楽しんでいたのだ。相手は優勝候補のフランスだから華々しく散る前に、大騒ぎしとこうか。そんな風に見えなくもなかったが、大きな勘違いだった。
 
 試合当日、彼らは心から試合を楽しんでいた。フランスのFKになれば特大のブーイングを浴びせ、イェディナクがPKで同点弾を決めれば大声援を送る。その迫力は半端なく、この日のカザン・アリーナはオーストラリアのホームと化していた。
 
 最終的にフランスに負けたからといって、くよくよなどしていない。試合後のカザンの街は、試合前日とは比べものにならないほどのオーストラリア人で賑わっていた。さすがにそこでは少数のフランス人も肩身が狭いように見えた。
 
 勝敗など関係なく、ワールドカップそのものを楽しむ。ワールドカップという大舞台で自国が戦う幸せを感じられるだけで、彼らはハッピーなのだ。
 
 ワールドカップでどうすれば日本が勝てるか、そんなことばかりを考えていた自分が窮屈な人間なように思えた。勝っても負けてもハッピー。もちろんワールドカップは世界中の人々が楽しむイベントだ。出場国以外の人だってみんな楽しみにしている祭典である。

 ただ、試合前日のフェスティバルな雰囲気、スタジアムで自国が戦う誇り、試合中の喜怒哀楽、試合後のビール、そういうものをひっくるめて出場国にしか味わえない特権があるのもワールドカップだということを感じずにはいられなかった。
 
取材・文:白鳥和洋(サッカーダイジェスト編集部)

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