【W杯キープレーヤー解体新書】スティーブン・ジェラード|剛直にして別格

2014年06月19日 ロベルト・ロッシ

射程が長くワイドなパスレンジが前線のスピードを活かす。

イタリアとの初戦では精彩を欠いたジェラード。持ち前のパスで速攻を演出する場面があまりなかった。 (C) Getty Images

 34歳になった今も絶対的なリーダーとして傑出した存在感を発揮する。ダイナミズム、テクニック、卓越したプレービジョン、プレーリズムの速さ、的確な状況判断、そして献身性。ミッドフィルダーに必要なすべての資質を高いレベルで備えた、この15年を代表する偉大なフットボーラーのひとりだ。ルーニーと並んでイングランドにとっては成否を左右する別格の存在である。
 
 プレースタイルは一言で言えば剛直。パスひとつ取っても、スピードの乗った直線的なパスをビシビシと通し、スローで柔らかいボールを蹴るのは稀だ。精度の面では例えばピルロ(イタリア)やシャビ(スペイン)のようなテクニシャンに譲るにしても、プレーがきわめて効果的である点は変わらない。とりわけイングランドの、縦へ縦へとスピードに乗ってボールを運ぶハイテンポなサッカーには、ぴったりマッチしている。
 
 守備に回っても、粘り強くてアグレッシブ、しかもポジショニングに優れる。長いキャリアのなかで、より高い位置でトップ下的にプレーしていた時期もあったが、近年はセントラルMFに戻り、攻守両面でチームに貢献している。
 
 横パスが少なく30、40メートルの速いグラウンダ―のパスを前線に通すそのプレースタイルは、スターリッジやルーニーのようにスピードとテクニックを備えたストライカーとは相性抜群だ。
 
 また、ピッチを斜めに大きく横切ってスペースに走り込むウイングにぴったり合わせる50、60メートルのサイドチェンジも効果的。ロングボールを収める上で不可欠な大型CFを置かず、スピード型のアタッカーを前線に並べた布陣がそれなりに機能しているのは、中盤に射程が長くワイドなパスレンジを持ったジェラードを擁しているからだ。
 
 この大黒柱を欠いたイングランドの攻撃は、今以上に単調で埒の明かないものになるだろう。控え組には、その穴を埋めるだけのクオリティーは備わっていない。
 
分析:ロベルト・ロッシ
構成:片野道郎
 
※『ワールドサッカーダイジェスト 出場32か国戦術&キープレーヤー完全ガイド』p53より抜粋。
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