「ローマの敵は12人いた!」 現地英国人記者がアンフィールドで感じた“異空間”

2018年04月25日 スティーブ・マッケンジー

地元が生んだ名曲を熱唱した意味は…。

異様な雰囲気を創出したリバプールの熱狂的サポーター集団「KOP」。彼らの存在が試合の行方を左右したといっても過言ではない。 (C) STEVE MACKENZIE

 2009年3月10日、チャンピオンズ・リーグ(CL)の決勝トーナメント1回戦でリバプールがレアル・マドリーを4-0で打ち負かした時、私は舞台となったアンフィールドにいた。

 リバプールのホームゲームは常にノイジーで、豊富なフットボール知識を持った群衆がいることは、もはや日本の読者の皆さんも周知のことだろう。マドリーを破った時も、ファンは世界屈指の雰囲気を作り出し、スペインの巨神を驚かせていた。

 それから9年、私は再びアンフィールドにいた。CL準決勝第1レグのローマ戦を観るためだ。11年ぶりに欧州ベスト4を戦うリバプールのサポーターは、ローマにプレッシャーをかける雰囲気を創出した。

 両者に対しての思い出といえば、1977年にリバプールがクラブ史上初のチャンピオンズ・カップ(CLの前身)を手にした舞台が、ローマのスタディオ・オリンピコだったことだ。

 相手はドイツの古豪ボルシアMGで、リバプールにはケビン・キーガンやイアン・キャラハンといった名手が顔を揃え、またユニホームに日本企業である「HITACHI」の文字が躍っていたことを妙に覚えている。

 そして、1984年のチャンピオンズ・カップの決勝で、両軍が直接対決をして、PK戦の末にリバプールが欧州制覇を成し遂げたことも、私はしっかりと記憶している。

 そうした歴戦でリバプールのサポーターたちがそうであったように、昨晩のアンフィールドでも、彼らは"異空間"を創り出していた。

「KOP」と呼ばれる彼らは、試合開始45分前からチャントを始め、そしてビル・シャンクリーやボブ・ペイズリーといった欧州制覇を成し遂げた歴代監督たちの顔がプリントされた大旗を振り回して、サポートを開始した。

 KOPは時折、大きな動物のような迫力を見せつける。自軍に対する熱烈な声援だけでなく、ボールを持った時に相手に対して飛ばす野次なども凄まじく、ローマからすれば、ピッチに立つ11人だけが相手というわけにはいかなくなり、精神的に追い詰められていったはずだ。

 そして、試合終了後、彼らはクラブの公式ソングとなっている『You'll never walk alone』とともに、地元が生んだ世界一のバンド、「The Beatles」の名曲『Hey Jude』を熱唱していた。その歌詞の中には「なあ、ジュード。わかっているだろう? すべては君次第で変わっていくんだ」というものがあるが、それはまさにユルゲン・クロップ体制3年目にして、ようやくビッグイヤーに手が届く位置にやって来た彼らを表現するような歌詞に思えた。

 ロマニスタの方々には申し訳ないが、この日、アンフィールドで味わった興奮は筆舌に尽くしがたく、読者に分かりやすいように文字に直すのが難しいとさえ思える。それほどまでに素晴らしかったのだ。

 日本のサッカー・ファンには、アンフィールドへ是非一度は足を運んでもらいたい。そこには世界屈指の雰囲気が広がり、Jリーグとは一線を画す、スペシャルな空気を味わえるはずだ。

文●スティーブ・マッケンジー(サッカーダイジェスト・ヨーロッパ)

【著者プロフィール】
STEVE MACKENZIE/1968年6月7日にロンドンに生まれる。ウェストハムとサウサンプトンのユースでのプレー経験があり、とりわけウェストハムへの思い入れが強く、ユース時代からサポーターになった。また、スコットランド代表のファンでもある。大学時代はサッカーの奨学生として米国の大学で学び、1989年のNCAA(全米大学体育協会)主催の大会で優勝を飾った。
 
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