【現地発】あらゆる手を尽くしたアトレティコ…あとはグリエーズマンの決断を待つのみ

2018年04月23日 エル・パイス紙

引き留めのポイントは「野心を満たしてやること」

エースの慰留に全力を注ぐアトレティコ。グリエーズマンは今夏、どのような決断を下すのか。 (C)Getty Images

 リーガ・エスパニョーラでは、無敗で優勝街道をひた走るバルセロナに次いで2位でフィニッシュし、ヨーロッパリーグのタイトルを獲得する。このふたつが今シーズンのアトレティコに残された目標であり、それがまた去就問題が浮上しているアントワーヌ・グリエーズマンを引き留めるための絶好の説得材料になることを彼らは期待している。

 アトレティコは少なくともこのエースに、あと1年は残ってほしいと考えており、手取り年俸が2000万ユーロ(約26億円)にも達しようかという破格のオファーの提示は、その意気込みの表われだ。

 もっとも、現在グリエーズマンがそうした金銭面よりも重視しているのが、来シーズン、クラブがどれだけ強力なスカットを用意できるかという戦力面であり、それだけに冒頭のふたつの目標を達成することの重要性が増している。

 グリエーズマンの野心を満たしてやることが「引き留め」のポイントになる――。移籍先の有力候補としてバルサの名前が連日メディアを賑わせる中、アトレティコのクラブ内にはそうした考えが日増しに強くなっている。ディエゴ・シメオネ監督は、そんなエースの心境を汲んだうえで、みずからの見解を次のように述べている。

「アントワーヌは"成長できる環境"を追い求めている。その意味で、言葉だけでなく、行動でも成長したいという意志をつねに示してきたアトレティコは、彼にとってその理想の環境になっている。リーガではこの終盤までバルサに食い下がり、ヨーロッパリーグでもファイナルの舞台に駒を進める可能性を手にしている。今シーズンもまた、チームは新たな足跡を残しているわけだ。それがアントワーヌに、我々スタッフ、チームメイトとともに今後も成長し続けたいと思わせる重要な動機付けになりうる。いま我々が成し遂げていることが、彼が決断するうえでの大きな後押しとなるはずなのだ」
 
 シメオネはクラブと手を取り合って、グリエーズマンの引き留め工作を進めてきた。「我々はアントワーヌにこれからもアトレティコとともに成長し続けたいと思わせるために、ありとあらゆるものを提供しなければならない。それはファンも同じだ」と、一時険悪な関係にあったファンをも巻き込む形で囲い込みの呼び掛けを行なったのは、まさにそうした戦略の一環であった。

 チームメイトのジエゴ・コスタがスペイン代表の記者会見で、「(自身の移籍問題が浮上していた時に)アントワーヌからは何度も電話でアトレティコに復帰するよう説得された。なのに、いまさら俺をひとりぼっちにしないでほしいね」という発言をしたのも、シメオネのアイデアだと言われている。

 グリエーズマンは今シーズン、すべてのコンペティションで26ゴールを挙げているが、そのうち19ゴールはジエゴ・コスタが復帰した年明け以降に記録したもの。シメオネもグリエーズマンにとってジエゴ・コスタが果たす役割の重要性を認めている。

「アントワーヌは素晴らしい数字を残している。ただ、彼は純粋なストライカータイプではない。だからこそジエゴ・コスタが加入したことでプレーの幅が広がり、それがまたチームの成長にもつながったんだ。12月を境に、チームは結果とともに試合の内容も良くなっている。アントワーヌはボール支配率が高まれば高まるほど、チーム内での存在感が増すタイプのアタッカーだからね」

 もっとも、シメオネがこれほど用意周到な引き留め工作を企てても交渉が軌道に乗らないのは、こうした交渉ごとにおけるグリエーズマンの扱いの難しさゆえである。ただ一方で、ここにきてファンへの感謝の思いを言動で示す機会が増えているのは、指揮官のそうした戦略が功を奏しているからに他ならない。

 仮に今シーズン限りでアトレティコを出ていくことになっても、クラブとして快く送り出す意向であることはすでに織り込み済みだ。アトレティコはエースを引き留めるために、ありとあらゆる手を尽くしてきた。あとは残りの試合に勝ち続け、グリエーズマンの決断を待つのみである。

文●ラディスラオ・J・モニーノ(エル・パイス紙/アトレティコ番記者)
翻訳:下村正幸
※『サッカーダイジェストWEB』では日本独占契約に基づいて『エル・パイス』紙の記事を翻訳配信しています。
 
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