【W杯キープレーヤー解体新書】ウェイン・ルーニー|成熟した万能のアタッカー

2014年06月14日 ロベルト・ロッシ

常に全力を出し切る献身的な姿勢もチームの模範に。

ルーニー不在のイングランドは、ハードワークだけが取り柄のパッとしないチームに成り下がると、ロッシ氏は考察。それだけルーニーの重要性は高い。 (C) Getty Images

 イングランドの文字通り命運を握るプレーヤーだ。チームで唯一、単独で決定的な違いが作り出せるワールドクラス。フィジカル、テクニックのいずれにおいても傑出したタレントを備える早熟の天才児は、28歳を迎え、組み立て、崩し、フィニッシュからディフェンスまで、あらゆる局面で先頭に立ってチームを引っ張る成熟した万能のアタッカーになった。
 
 ボールを持ったCBやセントラルMFが最初に探すのもルーニーなら、2ライン(DFとMF)間で前を向いたところからミドルシュートやアシストを放つのも、ボックス内でこぼれ球に反応して押し込むのもルーニーだ。そしてどんな状況でも常に全力を出し切って献身的にプレーする姿勢は、誰にとってもひとつの模範である。その意味で、チームにとって絶対的な基準点として機能していると言っていい。
 
 攻撃陣の中では傑出した実力と存在感を誇るだけに、その力を引き出す選手を選ぶよりはむしろ、彼と組むことで能力が発揮できるパートナーを選ぶ方が、ホジソン監督にとってはずっと重要な問題だろう。その観点から見ると、最前線に留まって基準点になるのではなく、前線を動き回るダイナミズムと裏のスペースをアタックするタイミングの感覚を備えたスターリッジは、相性のいいパートナーだ。
 
 不安は、故障が非常に多く、十分な状態で代表のビッグトーナメントに臨んだことがないコンディション面。13-14シーズンもハムストリングや内転筋に小さな故障を抱え、トップフォームに入らないまま、騙し騙しプレーを続けた印象がある。
 
 しかし、たとえ本来の力の60パーセントしか出せないとしても、ルーニーがいるといないとではイングランドの攻撃力に雲泥の差が出る。他のアタッカー陣は爆発的なスピードを備えてはいるものの、テクニック、そして戦術感覚は凡庸なレベルに留まっており、最後の30メートルの攻撃をオーガナイズする力量に欠けている。
 
 ルーニーがいないイングランドは、個の力で違いを作り出すことも、組織的なメカニズムで局面を打開することもままならない、ハードワークだけが取り柄の平凡でパッとしないチームに成り下がる。
 
 逆にエースが万全のコンディションなら、上位進出のチャンスは広がるはずだ。
 
分析:ロベルト・ロッシ
構成:片野道郎
 
※『ワールドサッカーダイジェスト 出場32か国戦術&キープレーヤー完全ガイド』p52より抜粋。
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