【現地レポ】単なる“フーリガン問題”ではない――ウェストハム・サポーターが暴れたワケ

2018年03月16日 山中忍

イングランドでフーリガン問題は葬り去られていないが…。

ピッチ内に飛び込んで自軍の選手たちへの暴行を働こうとした輩もいたが、ウェストハム・サポーターの大半は単に暴れたわけではなかった。 (C) Getty Images

 メインスタンドの前列から、役員たちが座る中段の席へ押し寄せる300~400人のウェストハム・ファン、怒りに満ちた表情で罵声を浴びせる群衆に怯え、スタンドを去る他の観客、そして対戦相手だったバーンリーのベンチに避難する子どもたち――。
 
 現地3月10日のロンドン・スタジアムで行なわれたウェストハム対バーンリー(プレミアリーグ30節)の一戦で発生した騒動を聞き、いわゆる「フーリガン」の暴動を想像した日本のプレミアリーグ・ファンは少なくないはずだ。
 
 無論、暴力行為が許されてはならない。ウェストハムの共同オーナーにコインを投げつけたとされる輩は、厳重に処分されるべきだ。ピッチに乱入した複数名も同様である。
 
 悲しいことに、イングランドにおいてフーリガン問題は完全に葬り去られていない。2年前に行なわれたEURO2016では、マルセイユを舞台に、対戦したロシア陣営の一部とピッチ外で乱闘騒動を演じて醜態を晒した。


 
 来るロシア・ワールドカップでは、一部の地元サポーターからの"復讐"を恐れ、イングランドからの客足は遠のくとの意見もある。その一方で、前回のブラジル大会や、前々回の南アフリカ大会に比べて近いロシアへ、フットボール・ファンを名乗って暴れに行く不埒な者たちが、再び現われるのではないかという懸念もある。
 
 しかしながら、英国内のクラブレベルで、身の危険を覚えるような試合会場の光景を目にするケースは滅多にない。ウェストハム・サポーターが起こした今回の一件も、イングランドだからといって、短絡的に「フーリガン問題」と結びつけてもらいたくはない。
 
 ロンドン・スタジアムの役員席は、記者席のほぼ真下に位置している。当日の筆者は西ロンドンの別会場にいたのだが、仮にその場にいたとしても、自分たちのいる方向に向かってくる群衆を恐ろしく思うことはなかっただろう。当日に現場にいた国内紙の記者に確認しても、「やばいとは思わなかった」という反応だった。
 
 というのも、ファンの怒りが完全にクラブ経営陣へと向けられていたからだ。行動に出た彼らは、一昨シーズンの本拠地移転に伴う、過去2年分の疑問や不信に対する「バイオレンス」ではなく、「アンサー」を求めたにすぎなかった。

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