【本田密着・第1回】移籍から1か月、やや逆風の船出

2014年02月24日 神尾光臣

「遅い!」「シュート撃てよ!」の罵声が…

25節終了現在、セリエAで本田はまだノーゴール。期待が大きかった分、ファンの反応も辛辣に。セードルフ監督の起用法を含め、いましばらく試行錯誤が続きそうだ。 (C)Alberto LINGRIA

 2014年1月、本田圭佑が新たなチャレンジを開始した。CSKAモスクワから、世界屈指の
超名門クラブ、ACミランへ――。

「心の中の『リトル本田』に聞いた」との名言とともに、名門クラブの背番号10番を背負った本田。そのロッソネーロ(ミランの愛称で赤と黒の意)の日々を、現地在住のライター、神尾光臣氏が追う。

――◆――◆――

「5.4」。

 イタリアの主要スポーツ新聞3紙に、ミランの報道には力を入れるミラノ本拠の全国一般紙『コリエレ・デッラ・セーラ』を含め、初陣となった19節サッスオーロ戦から24節ボローニャ戦までの、セリエA5試合での本田圭佑に対する採点の平均だ。及第点は6点。つまりここまでの評価は残念ながら高くない。

 さらに、採点に添えられる寸評の文句は、試合を追うごとにどんどん辛辣なものになっていった。

「日本人は諦めないと入団会見で言っていたが、彼もまた、レジスタンスの巣くうジャングルの中で小道を見つけられなかった」(トゥットスポルト紙)
 
「チームメイトは金星からやってきて、彼は火星の出身だった。あるいはその逆でもいいが、とにかくチームメイトと意思疎通ができていなかった」(ガゼッタ・デッロ・スポルト紙)

「日を追うごとにミランの中では厄介な存在になりつつある」(コリエレ・デッロ・スポルト)

 ただし、各紙ともいたずらに本田が実力不足だと非難しているわけではない。「セードルフ監督は彼を4-2-3-1の右サイドで起用したがるが、ポジショニングが悪い。本人には合っていないのではないか」という見解が根底にある。

 もっともファンの反応は、もっと直接的だった。ボローニャ戦で途中交代した際、本田にはかなり激しいブーイングが浴びせられたが、その前から厳しい声は聞かれていた。パスコースがなく、本田がボールをキープしてスローダウンするたびに、スタンドからは「遅い!」「早く出せ!」「シュート撃てよ!」という罵声が飛んでいたのである。

 一般的に、外国人選手にとって、守備が厳しく戦術的要求が高いセリエAへの適応は、時間がかかると言われている。しかし、シーズン序盤から続く不振に痺れを切らしている今のミランのファンには、そうした悠長な一般論は通用しない雰囲気がある。本田に寄せられているのは、即戦力として大きな期待だ。

 その本田の活かし方について、つねに疑問を突きつけられる立場のセードルフ監督は、毎度のように「本田は右で合っているのか、なぜ右で使うのか」と記者会見で突っ込まれている。それにも丁寧に付き合い、「彼には時間が必要なんだ」と理解を求めてきた監督も、25節のサンプドリア戦のあとは、繰り返される質問にさすがにうんざりした様子だった。

「それが良いと思っているから私はやっているし、合わせてくれている。大事なのは選手の側に従う意志があるかどうかで、圭佑にはそれがある。これは、もう二度も三度も言っていることだがね」

 前を向き、いいタイミングでパスが来れば、本田は右でも良いプレーができるし、逆にトップ下でも、いいタイミングでパスを受けられなければ苦しいはずだ。いずれにしても、納得の結果が出るまでは、こうした問答は続いてきいそうである。
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