【週刊サッカーダイジェストの目】中盤の新たな軸が誕生か――山口蛍がフル出場した理由

2014年05月28日

前後半でスタイルの二面性を見せられた理由

キプロス戦でも豊富な運動量で中盤を支えた山口。日本代表の新たな中盤の軸として期待がかかる。(C) SOCCER DIGEST

 ワールドカップ前の国内ラストマッチとなったキプロス戦は、スコアだけ見れば1-0と辛勝だが、調整試合と考えれば意義深いものだった。いくつかの見るべきポイントがあったなか、今後チームの戦い方に大きく影響を与えそうなのが山口蛍の存在だ。
 
 前半は遠藤保仁と山口、後半は長谷部誠と山口が2ボランチでコンビを組み、前者は遠藤のパスさばきから攻撃のリズムが生まれ、後者は長谷部が持つ縦への推進力が攻撃をスピーディーにした。つまり日本は、前後半でスタイルの二面性を見せたと言える。
 
 遠藤と長谷部の交代は既定路線だったようで、試合後にアルベルト・ザッケローニ監督は「ゲーム前から交代のことは頭にあった。遠藤はリーグ戦でずっとやっているので試合勘が必要ない。長谷部に関しては45分やらせたい気持ちがあった。山口はインターナショナルな経験や、チームに合わせる時間を与えることを考えていた」。
 
 山口に関する指揮官の説明は納得のいくものとはいえ、国際経験や連係の時間が必要なのは青山敏弘も同様。そのなかで山口を90分間フルに起用したのは、遠藤と長谷部の両者と連係を深めさせる意味合いが強いはずで、山口が中盤の新しい軸になり得る可能性を示唆している。
 
 ただ遠藤と長谷部のどちらと組んでも、山口自身の役割に大きな変化はない。「今までどおり変わらないと思いますし、どっちとやってもしっかり対応できる。ただどっちとやっても、もう少し攻撃に出て行ければいいのかなと思います」。
 
 山口を軸に戦い方を変えた試合として、すぐに思い浮かぶのが昨年11月のオランダ戦だ。この試合でも、前半は長谷部と山口が組み、後半は遠藤と山口コンビへとシフトした。
 
 仮想ギリシャと位置づけられたキプロス戦後、山口は「前半は相手が前から来ていたので上手く回せなかったところもあったけど、後半は相手がちょっと下がってスペースもあったので、上手く回せたと思う」と振り返った。
 
 当然、本番のギリシャ戦でも同様の展開は考えられる。豊富な運動量と優れたボール奪取能力を駆使し、広範囲をひとりでカバーできる山口は、指揮官にとっても魅力的に映っているだろう。
 
 ザッケローニ監督がいくら「攻撃的メンタリティーを前面に押し出す」と宣言しているとはいっても、イタリア人には"カテナッチョ"(イタリア語でカンヌキの意。イタリア伝統の守備の堅さを示す)の血が流れており、守備を疎かにするはずがない。
 
 そして攻撃的な姿勢を打ち出すからこそ、守備で抜群の存在感を示す山口は、いまや日本の中盤にとって不可欠なパーツと言えるのだ。オランダ戦のような"スーパーサブ・遠藤"という選択肢も、90分を通じてインテンシティー(プレー強度)を維持できる山口がいてこそ可能になる。
 
取材・文:大木 勇(週刊サッカーダイジェスト)
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