【現地発】中盤のオールラウンダーへ進化を遂げたラキティッチ「謙虚で努力家の彼だからこそ」

2018年02月13日 エル・パイス紙

バルサで居場所を確保するために。

今シーズンはブスケッツとのダブルボランチで起用される機会が多いラキティッチ。最終ラインをケアしつつピッチを幅広くカバーし、組み立てから崩しまでを巧みにこなす。(C)Getty Images

 2011年1月末、イバン・ラキティッチはシャルケ04からセビージャに移籍した。冬の寒さが厳しいゲルゼンキルヘン(シャルケの本拠地)とは対照的なスペイン南部の温暖な気候、ブンデスリーガのさらに上を行くリーガ・エスパニョーラの高い競争力に加え、オファーを受諾する決め手となったのが、「セビージャで活躍すれば、レアル・マドリーやバルセロナへ移籍するチャンスが高まる」という周囲からのアドバイスだった。

 その青写真通り、ラキティッチはセビージャの中心選手として、さらにはキャプテンとして果たした実績が高く評価され、2014年6月にバルサへ移籍する。そして入団直後から、「バルサの中盤」という世界でもっとも難易度の高いステージで多くの出場機会を得ると、今シーズンから指揮を執るエルネスト・バルベルデ監督の下でも不動のレギュラーとして活躍している。

 以前セビージャのテクニカルスタッフの一員としてラキティッチの獲得に尽力し、現在はリーズ・ユナイテッドでスポーツディレクターを務めるビクトール・オルタは、ラキティッチの近年の成長ぶりに目を細める。

「イバンはサッカー選手という職業を心から愛している。つねに自分を律することができて、頭がいい。バルサ入団後、不平不満を一切こぼすことなく、ポジションと役割の変化を受け入れられたのも、彼が謙虚で努力家だから。イバンはバルサで居場所を確保するためにはなにが必要かを理解していたんだ」

 プロデビュー当初、典型的な10番タイプの選手だったラキティッチのプレースタイルの変化についても、オルタは言及する。

「いまのイバンはむしろ6番、あるいは8番タイプの選手だ。前線に近い位置で、パスを足元で受ける立場の選手から、中盤全体を幅広く動き回りながらフィニッシュにも顔を出すオールラウンダーなミッドフィルダーへと変貌を遂げた。イングランドで言うところの、ボックス・トゥ・ボックス型だ。とくに目を引くのは豊富な運動量。セビージャ時代の彼は、いまほど幅広くピッチをカバーする選手ではなかった」

 ラキティッチのプレースタイルの変化は、中盤の選手に豊富な運動量を要求した前バルサ監督、ルイス・エンリケの時代から見られたが、今シーズンは守備面の貢献が増える一方で、ややシュートを撃つ機会が減少。事実、リーガとチャンピオンズ・リーグではここまで1ゴールしか挙げられておらず、コパ・デル・レイでも2ゴールに留まっている。

 しかしオルタは、「トータルで見ればさらに進化を遂げている」と断言する。

「イバンはいまなお成長、いや進化を続けている。得点が少なくなっているのも、チーム内で自身に与えられている役割が他にあると理解しているからだ。とくに今シーズンは、守備でのアグレッシブさが増した。スピードはお世辞にもあるとは言えないが、彼のいいところはそれを自覚してプレーしていること。最近は1対1の状況で無理にドリブルを仕掛けるのではなく、長短を織り交ぜたパス交換によって攻撃の局面を動かすことを心がけている」

 指揮官の交代によりマイナーチェンジを果たしたバルサだが、それが驚くほどスムーズに進んだのは、ラキティッチ自身の成長があったからこそと分析する専門家は少なくない。チームの長所を最大限に生かしつつ短所を最小限に抑える――。そうした能力が備わっているのは、ラキティッチが生まれ育ったルーツに理由があると、オルタは言う。

「イバンはスイスで生まれたが、クロアチア人の両親から譲り受けたバルカン民族特有のメンタリティーの持ち主でもある。イバンが持つ強い向上心、勝利への激しい執着心、ハングリー精神は、そうした彼の中に流れているバルカン民族の血に由来しているものだ。ただ彼の場合、他のバルカン地方出身の選手たちに見られるそうした気性の激しさが、ネガティブな面として顔を覗かせるケースがほとんどない。イバンはスイスで教育を受けている。理路整然とした態度、落ち着き、自分を律する強さといった要素が、人格形成に決定的な役割を果たしているのだろう。彼はスイス人とバルカン民族の両方の良さを、理想的な形で併せ持っている」

文●ナディア・トロンチョニ記者(エル・パイス紙)
翻訳:下村正幸
※『サッカーダイジェストWEB』では日本独占契約に基づいて『エル・パイス』紙の記事を翻訳配信しています
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