【選手権】スタメン落ちがキッカケに――流経大柏の2年生FW熊澤和希が迎える覚醒の時

2018年01月06日 安藤隆人

「サッカーノートを見返したら、独りよがりの悪い自分がいた」

途中出場した熊澤は終了間際にチームの3点目を決めた。写真:田中研治

[高校サッカー選手権・準々決勝]長崎総科大附 0-3 流経大柏/1月5日/浦和駒場
 
「スタメン落ちは当然だと思った」
 
 準々決勝・流経大柏対長崎総合科学大附のスタメン表に、これまで2戦連続で先発していた流経大柏の2年生FW熊澤和希の名前は無かった。
 
 怪我ではない。ハッキリしていたのは、3回戦のパフォーマンスが悪かったことだ。3年生中心のレギュラーのなかで、CB関川郁万とともふたりだけ2年生でスタメンを張り続けて来た男は、インターハイ決勝ではチームを優勝に導くゴールを決め、今大会初戦(2回戦)の大分西戦でも2点目をアシストするなど、効果的な働きを見せていた。
 
 だが、3回戦の日章学園戦。熊澤は再三訪れるチャンスをフイにしてしまった。0-0で迎えた前半11分に決定機を外すと、同15分には完全に抜け出してGKと1対1になるが、シュートはミートしきれず枠の外。それ以降は精彩を欠いたまま、プレーもどこか空回りし、結果として後半12分に交代を告げられてしまった。
 
「日章学園戦で『自分が、自分が』になりすぎて、余計な強引さが出てしまって、周りを上手く使えなかった。決定機を外して、チームに迷惑をかけただけに、正直スタメンから外れることは覚悟していた」
 
 納得のベンチスタートだっただけに、熊澤の心境に大きな変化が生まれた。
 
「一度、頭のなかを整理しようと思い、まず自分がやるべきことをきちんとサッカーノートに書き出しました。これはいつもやっていることですが、大分西戦と日章学園戦のノートを見返したら、やっぱり『結果を出す』ことに終始してしまって、独りよがりの悪い自分がいた。だからこそ、試合に出たらしっかりディフェンスから入ること、ワンタッチベースで周りを活かしながらやること、そしてそのうえで結果を出すこと。それを昨日、寝る前にきちんと確認をして今日を迎えました」
 
 心の視野が広がったことで、プレーの視野も一気に広がった。「熊澤はサッカーに対して凄く真面目な選手」と評する本田監督は、彼の真摯な姿勢を感じ取ったのか、2−0で迎えた後半33分に「点を獲って来い」と熊澤をピッチに送り出した。
 
「ベンチに座っている時に相手の最終ラインを研究していたので、そこで得た知識を持ってプレーをしようと思いました。まずは(攻撃の)ファーストプレーで負けないことが重要だったので、前線で身体を張ってボールを収めることを心がけました」
 
 このメンタルコントロールの成果はすぐに表われた。熊澤は「巻き返したい」と思うだけでなく、周りを見て、全体のバランスを保ったうえで自分の良さを出す。
 
 後半40分、相手クリアボールを味方がヘッドで跳ね返すと、ペナルティエリア左でDFと競り合いながら胸でMF金澤哲流に落とし、着地と同時にゴールに身体を向けた。そこに金澤から浮き球のスルーパスが送られると、滑らかな身のこなしからワンタッチで抜け出し、右足アウトサイドでゴール右隅に流し込んだ。
 
 心を落ち着かせ、チームプレーに徹したからこそ、生まれた選手権初ゴール。
 
「明日はスタメンかベンチか分かりませんが、ここからスタートだと思います」
 
 もう余計な雑念はない。チームのために自分を生かす。覚醒のキッカケを掴んだ2年生ストライカーは、どんな状況でもブレることはない。
 
取材・文●安藤隆人(サッカージャーナリスト)
 
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