【選手権】美しく散った奈良王者…前半15分の交代劇に隠された感動ストーリー

2018年01月03日 川原崇(サッカーダイジェストWeb編集部)

「キャプテンはお前しかいないんだ!」

一条の主将・生成は2試合で“37分間”の出場。実に濃密で感慨深い、最後の選手権となった。写真:早草紀子

[高校サッカー選手権・3回戦]米子北 3-0 一条/1月2日/等々力

 プレミアリーグWESTの雄、米子北の牙城に迫った一条。初の選手権8強入りを狙ったが、善戦及ばず0-3の敗北を喫した。
 
 実は前半15分、こんなシーンがあった。一条の前田久監督は主将のCB生成光(3年)に早々と交代を命じ、その位置にDF奥井瑞樹(3年)を投じたのだ。ざわつくスタンド。しかしそれは、2回戦の桐蔭学園戦でも見られた光景だった。ほぼ同じ時間にまったく同じ場面が……。パフォーマンス云々の交代ではなく、あらかじめ定められた限定出場だったのだ。
 
 指揮官はこう説明してくれた。
 
「生成が怪我から復帰したのは大会の少し前で、頭から20分なら起用できるだろうと踏んでいました。彼に代わるキャプテンはいないし、スタートのところで声出しなどしっかりディフェンスを締めてもらって、20分になったら、彼がいない間に頑張っていた奥井につなぐ。交代枠が今年から5枠になったのももちろん影響しています。今日(米子北戦)は15分で交代になってしまいましたけどね」
【選手権PHOTO】3回戦 一条0-3米子北 3ゴールで快勝の米子北がベスト8進出
 
 奈良県予選の2回戦で、左膝前十字靭帯を傷めた生成。代えの利かない守備の要にして精神的支柱を欠きながら、チームは逞しく勝ち上がり、2年連続の出場権を手にした。生成は「思ったより痛みはなくある程度ならできるかもしれない、ならば手術は先延ばしにしようということになったんです」と振り返る。懸命のリハビリを続け、なんとか本大会に間に合わせた。「キャプテンはお前しかいないんだ!」という前田監督のゲキを受け、「こんな形でも出してもらって本当に感謝しています。自分が力になれたのかどうかは微妙なところですけど」と、こぼれ落ちそうな涙をこらえた。
 
 交代で登場する奥井は、生成のクラスメイトだ。「途中からあのタイミングで出るのは精神的にけっこうきつかったです」と言いつつ、「やっぱり生成がまずは落ち着かせてくれてるんで、意外とすんなり入れました。ふたりでつないでやるというのもなかなかない経験やし、同じ大会のピッチに立てて良かったです」と感慨深げに話した。そして生成は「奥井やほかのチームメイトも同じクラスなんですけど、みんなサッカーに真剣でポジティブ。ずっと励ましてくれたし、あいつらがクラスメイトでホンマに良かったです」と感謝を口にする。
 
 最後の選手権で、ふたりの3年生の熱き想いが交錯したバトンリレー。生成は大会後にようやく手術を受け、入学が決まっている大学に進む。そして奥井は苦笑いしながら「これから猛勉強です」と話し、一般受験での大学進学を目ざす。
 
 等々力陸上競技場に清々しい余韻を残しつつ、一条の冬が終わりを告げた。
 
取材・文●川原崇(サッカーダイジェストWeb編集部)
 
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