「ブンデス日本人最多得点者・香川真司」を不可欠の存在たらしめる“経験”と“特有の武器”

2017年10月05日 中野吉之伴

新システムのなかで「居場所がない」といわれたが…

ピッチ上にいようが、外にいようが、チームに多くのものを還元できるほどの経験を積んできた香川だが、他選手にない武器を持つだけに、その貢献度はプレーすることでより高くなる。 (C) Getty Images

 第7節のアウクスブルク戦で、香川真司がブンデスリーガ日本人最多ゴール記録を更新した。


 23分、アウクスブルクのCB、マルティン・ヒンターエッガーと左SBフィリップ・マックスの連係ミスを衝いたピエール=エメリク・オーバメヤンが敵陣でボールを拾うと、そこからのパスを受けたアンドリー・ヤルモレンコがダイレクトで香川へボールを渡す。
 
 その直後、ペナルティーエリアに少し入ったところから放たれた右足ダイレクトでのループシュートにより、ボールは美しい軌跡を描いてゴール左へと吸い込まれていた。
 
 これでブンデスリーガ通算38得点とした香川は、リーガにおける日本人通算得点で岡崎慎司を抜き、単独トップとなった。
 
 とはいえ、今シーズンは最初から順調な船出だったわけではない。
 
 ペテル・ボシュ新監督は、トップ下を置かない4-3-3システムを基本的に固定して採用している。中盤の1人はセンターでゲームオーガナイズを担い、その両脇でプレーする2人は豊富な運動量と守備での貢献、そして攻撃ではボールを速やかに運び、攻撃陣へボールを供給する仕事が求められている。
 
 ドイツの専門家からは、「香川の特徴はこれに合わない」といわれていた。居場所がない、と……。
 
 相手が守備を固めているところにスッと入り込んでボールを引き出し、相手が守ろうとする動きをすり抜けてゴールを射抜く――。その特徴だけが、クローズアップされていた。
 
 確かに、香川は利便性の高い選手ではなく、どのポジションでも器用にこなすという印象があるわけではない。守備に難があるのは否めないし、特徴を消されて試合からも消えてしまうことは幾度もあった。
 
 だが、香川に蓄積された経験は、ドルトムントに所属する選手のなかでも、トップクラスという事実を忘れてはならない。
 
 7月に契約延長を締結した際、ミヒャエル・ツォルクSDは「シンジは、我々のクラブ、街、ファンと非常に密なアイデンティティーを持っている。全体的に若い選手が多い我々のチームのなかで、最も経験豊富な選手のひとりであり、非常に重要な役割を果たす選手だ」とコメントしていた。

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