【蹴球日本を考える】勝利の瞬間、脳裏に浮かんだのは4年前のコロンビア人たちの声だった

2017年09月01日 熊崎敬

「なんとか間に合った」という80代老人の言葉には重みがあった。

W杯出場が当たり前のようになっている昨今だが、今回ばかりは危機感を抱いた人も多いのではないだろうか。写真:山崎賢人(サッカーダイジェスト写真部)

 さすがにもう追いつかれることはないだろう――。
 3分のアディッショナルタイム、その瞬間を待つばかりとなった埼スタで、私の脳裏に浮かんだのは2014年のワールドカップで対戦したコロンビア人たちの声だった。
 
「我々が、どれだけこの瞬間を待ち望んでいたことか!」
 ブラジルで出会ったコロンビア人たちは、口々にワールドカップに参加する心境を興奮気味に語ったのだ。
 
 コロンビアのような強豪でも、激戦区南米では出場権を手にすることは難しい。ブラジル大会は彼らにとって98年フランス大会以来、4大会ぶりの祭典。「なんとか間に合った」という80代の老人の言葉には重みがあった。
 
 おそらく私は、コロンビア人の気持ちをちゃんと理解してはいない。日本は5大会連続出場。ワールドカップに出ることが、当たり前になっているからだ。
 
 だがこの予選で、ワールドカップに出られることのありがたさを久々に痛感した。最終予選はUAEにホームで敗れるという波乱の幕開け。その後、着実に勝点を重ねたが、サウジアラビアの健闘もあって3位転落の危機を迎えていたからだ。
 このオーストラリア戦を落としたら、プレーオフ行きが現実のものに迫ってくる。
 
 若く経験の少ない日本代表は、このプレッシャーを見事に克服した。大一番に経験豊かな本田、香川を外して勝負に出た、ハリルホジッチ監督の起用も的中した。
 
 ブラジルでの惨敗を経て新たに立ち上がった日本代表は、従来の上手いチームから怖いチームへとイメージを変えつつある。
 ロシア行きを決定づけた井手口の一撃、敵を容赦なく潰し、そのままフィニッシュに持ち込んだプレーは、新しい日本代表のスタイルを象徴するものだった。
 
 日本はワールドカップに出られる。
 
 いま私は、その喜びを噛みしめながら原稿を書いている。ワールドカップに出られるというのは、夢が続くということだ。来年の夏まで夢を見ながら、ああでもないこうでもないと大騒ぎできる。これは予選を突破した国だけに許された特権だ。
 正直なところチームの完成度は低く、課題もたくさんあるのだが、それは明日から言うことにしよう。
 
 帰り際、10時を回ったスタジアム横の芝生の広場で、大人や子どもが楽しそうにボールを蹴っていた。子どもたちにとっては、夏休みの最後の忘れられない一日になったかもしれない。
 
取材・文:熊崎 敬(スポーツライター)

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