まさに不死鳥のごとく! 稲本潤一が思い描く「完全復活へのシナリオ」

2017年07月21日 川原崇(サッカーダイジェストWeb編集部)

「膝の痛みはまったくない。今月中のどこかで…」。

代名詞である強力ミドルを放つ。8月のJ1出場に向け、名ボランチの調子は上向きだ。写真:山崎賢人(サッカーダイジェスト写真部)

「ほとんど1年ぶりですからね。(チームの)全体練習に合流したのは。まだまだ戻り切れてない部分はありますよ」
 
 炎天下の中でのハードメニューを終え、稲本潤一は言葉を噛み締めた。
 
 昨年6月のJ2・ジェフ千葉戦で、元日本代表のレジェンドはかつてないほどの大怪我を負った。右膝の前十字じん帯、および軟骨、内側側副じん帯の3か所を同時に傷めたのだ。診断結果は全治8か月。選手生命さえ危ぶまれる緊急事態だった。
 
 その後コンサドーレ札幌は力強く昇格レースを勝ち抜き、見事J2で優勝。稲本は懸命のリハビリを耐え抜き、J1開幕戦の出場を睨みながら、なんとかプレシーズンキャンプに間に合わせてきた。しかし……。
 
「痛みを抱えながらやったんでね。それでもやってく中でいつか消えるかなと思ってたけど、強い負荷がかかってたみたいで、半月板のところを傷めてしまった」
 
 今度は右膝の外側半月板と軟骨を損傷。全治5か月。自暴自棄になってもおかしく状況だったが、この男のハートはそれしきのことでは折れなかった。ミスター・ポジティブの真骨頂だ。
 
 黙々とリハビリメニューをこなし、目標に定めた8月中の完全復活に向け、これ以上ない順調さで時を刻んでいく。そして7月20日、およそ13か月ぶりに全体練習合流を果たしたのだ。
 
 一つひとつのプレーを確かめながら、徐々にギアを上げる。豪快に右足を振り抜いたシュートシーンでは、チームメイトやファンから拍手が起こった。
 
「コンディションは8割がた、ってところですかね。膝の痛みはまったくないし、順調かなと思います。でもまあそこは焦らずに、徐々に徐々に。身体と相談しながらしっかり試合に絡めるような状態にもっていきたい」
 
 想定しているのは、当初の予定より早い、8月上旬での公式戦復帰だ。8月5日の20節・セレッソ大阪戦(アウェー)か、あるいは同9日の21節・横浜F・マリノス戦(ホーム)か。思い描くシナリオはこうだ。
 
「今月中のどこかの練習試合に出させてもらえれば。現状はチームに100パーセント入れてるわけじゃないし、対人の部分がまだまだ。1対1であったり、ボールを獲りにいく作業はやってないし、いざゲームの中で逆を取られた時に膝が付いてくるのかはやってみないと分からない。1年間やからね。感覚や試合勘のところも確認しないと」
 
 コンサドーレを取り巻くムードは上々だ。いよいよJデビューが目前に迫った"タイのメッシ"ことチャナティップと、元ジュビロ磐田の点取り屋・ジェイが新たに参戦するなど、後半戦の巻き返しに余念がない。ここに歴戦の勇士である稲本が加われば、さらに駆動力が増すはずだ。
 
「今日は楽しくやれた。やっぱりみんなと練習できるのはいいよね」
 
 しみじみとそう語って、少年のような笑みを浮かべた。華のある名ボランチがもうすぐ、J1の舞台に戻ってくる。
 
取材・文:川原崇(サッカーダイジェストWeb編集部)
 
みんなにシェアする
Twitterで更新情報配信中

関連記事