【小宮良之の日本サッカー兵法書】時代遅れの戦術を「最先端」へ――セビージャの挑戦に要注目!

2017年07月19日 小宮良之

リスクの高いマンツーマンを信奉する理由

昨シーズンも、サンパオリ監督の下で選手が目まぐるしく動く攻撃サッカーを展開したセビージャだが、新生チームはそれ以上に力強く、躍動感溢れるチームとなりそうだ。写真はC大阪戦。 (C) Getty Images

 7月15日に来日したセビージャが、17日にヤンマースタジアム長居でセレッソ大阪と対戦。3-1で勝利を飾ったが、試合内容ではスコア以上の差があった。
 
 彼らの戦い方は、瞠目に値した。C大阪の選手にマンツーマンで襲いかかり、息も付かせない。そして打ち寄せる波のように、何度も攻撃を繰り出したのである。
 
 セビージャの新監督に就任したエドゥアルド・ベリッソは、マンツーマン戦術を信奉している。
 
 これは基本的にディフェンス戦術のひとつであり、その昔は主流とされていた。対面する特定の相手に対し、1対1で守る。ボールを持った相手に吸い付き、強度の高い守備を仕掛けて、相手のミスを誘発するのだ。
 
 しかし、90年代になると、マンツーマンは「時代遅れ」といわれた。代わって台頭したのが、ゾーンディフェンスだ。それぞれの選手が自分の持ち場を決め、そこに入ってくる敵を叩く。お互いが連係し、チャレンジ&カバーで守る。
 
 これによって、1対1でボールを奪うことができなくても、失点のリスクを減らすことができる。また、各ポジションに選手がバランス良く散らばることで、いざ攻めに転じる時も、形を作りやすい。ゾーンはリスクが少なく、効率的と言える。
 
 一方、マンツーマンは、1対1でボールを奪ったらチャンスになるが、逆に自陣で相手に抜き去られてしまったら、(カバーがいないため)一気にゴールまで持ち込まれかねない。まさに危険と隣り合わせの戦術であり、90分間を通して見た場合、リスクは高い。
 
 しかし、ベリッソは全く違った発想で、チームを作っている。
 
「90分間、攻め続ける」
 
 その理想は、もはや詩的と言ってもいい。ベリッソのチームは、未踏のスペクタクル性に挑んでいるのだ。
 
 事実、昨シーズンまで率いたセルタでは、レアル・マドリーやマンチェスター・ユナイテッドのようなビッグクラブを相手にしても、一歩も引いていない。ピラニアのように食らいつき、危険を顧みず、攻め続ける意志を示した。

次ページゾーンの思考も備えた進化系の「時代遅れ戦術」

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