【名古屋】“PK3本”を連続成功。シモビッチが示したストライカーの神髄

2017年05月28日 本田健介(サッカーダイジェスト)

蹴り直しにも冷静に――。

試合後には味方と喜びを分かち合ったシモビッチ。周囲との連係も上々だ。(C)SOCCER DIGEST

[J2リーグ16節]横浜FC1-2名古屋/5月27日/ニッパツ
 
 上位対決となった横浜FCとの一戦で、名古屋に勝点3をもたらしたのはエースのシモビッチだった。1点ビハインドで迎えた55分、和泉のシュートがC・ヨンアピンの手に当たり、PKを得ると、ボールを抱えたのは長身の背番号9だった。
 
 ふっと息を吐いてから走り出し、右足で放ったシュートはゴール右に吸い込まれた。しかし、直後にレフェリーが吹いた笛は、ゴールを知らせるものではなく、蹴り直しの宣告だった。シモビッチがシュートを打つ前に、味方がPA内に走り込んだとの判断だった。名古屋の選手たちは抗議するが判定は覆らず。不穏な空気が漂うなか、シモビッチは再度PKスポットに向かった。
 
 しかし、強心臓の持ち主は「もちろんドキドキしました」と振り返るが、そんな素振りを見せず、1本目とまったく同じコースにシュートを決めてみせた。
 
 そして同点で迎えた77分には、今度は田口が味方とのパス交換からPKを獲得する。もちろんキッカーはシモビッチである。今度はどちらに蹴るのか――。スタジアム中が注目するなか、キックの方向は直感で決めたという。
 
「ボールを置いて自分のスイッチが入った瞬間に決めた。今度は逆に蹴ろうと」
 
 長い右足をコンパクトに振り抜くと、ボールは低い弾道のまま、ゴール左に突き刺さった。これがチームを暫定首位に導く貴重な決勝ゴールとなった。
 
 昨季、スウェーデンのヘルシンボリから移籍してきた男はJ1で11ゴールを奪い、今季はJ2で8ゴールと、順調に結果を残している。もっとも、本人は今の成績には満足していない。
 
「去年は11ゴールを取り、ファーストステージでは9ゴールを奪った(ファーストステージの最終節は6月25日)。だから去年のほうが良かったのかもしれない。もっと頑張りたい。これから夏場に向けて、自分のフィジカルをさらに上げつつ、チームコンディションも整えていかなくてはいけない」
 
「自分のパフォーマンスは関係ない。勝てば良い」と、語る利他的なメンタリティを持つ点取り屋は、「責任を背負うのが好き」とも話す。周囲の大きな期待に潰されることなく、ゴールという歓喜へ変換する――。これぞストライカーと呼べる仕事を粛々とこなす"北欧の巨人"は、今後も冷静に、そして的確にネットを揺らし続けてくれそうだ。
 
取材・文:本田健介(サッカーダイジェスト編集部)
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