【コラム】「お騒がせ審判」は世界的地位を捨ててなぜ中東へ行くのか?

2017年05月02日 山中忍

異例の若さでプロの試合を裁き、「スター気取り」との批判も…。

いつも通りに選手と対話をしながら、冷静にプレミアでのラストマッチを裁いたクラッテンバーグ。様々な話題をさらった名物審判がイングランドから姿を消す。 (C) Getty Images

 今夏の移籍市場開幕を待たずに、プレミアリーグから1人の一線級が海外に移籍した。国内トップリーグで審判を務めてきたマーク・クラッテンバーグだ。
 
 2月にサウジアラビア行きが発表された42歳のイングランド人は、4月29日のWBA対レスター戦を裁いて、3か月間の離任通知期間を終えた。
 
 プレミアリーグにおける審判の国外流出は初めてというわけではない。クラッテンバーグが年収5倍増に当たる推定50万ポンド(約7000万円)の報酬で就任するサウジアラビア審判員長の前任者は、同じイングランド人でプレミアリーグでも笛を吹いたハワード・ウェブだ。
 
 しかし、ウェブの場合は、審判として現役引退した後に同職へ就いている。これに対してクラッテンバーグは、昨シーズンのFAカップ決勝とチャンピオンズ・リーグ決勝、EURO2016決勝で笛を吹き、審判として「国内外主要大会三冠」の偉業を達成したばかり。2018年のロシア・ワールドカップ決勝の主審候補とも目されていただけに、サウジアラビア移籍への反響は大きかった。
 
 クラッテンバーグは好き嫌いが分かれる審判ではある。ピッチ上での「黒子」が理想と言われる職業にあって、何かと目を引くタイプだったからだ。ジェルで整えた髪型から、選手や監督への親しげなアプローチまでそのスタイルには、「スターの仲間気取り」といった声もあった。
 
 誤審とも無縁ではない。プレミアリーグの審判となって間もない12年前の出来事だが、マンチェスター・U対トッテナム(2004-2005シーズンのプレミアリーグ22節)で、ボール3個分はゴールラインを割っていたペドロ・メンデス(トッテナム)のロングシュートを得点と認めず、「プレミア史上最悪のノーゴール」とも呼ばれる判定も下している。
 
 さらにポルシェを駆る主審は、ピッチ外でも注目を浴びた。EURO2016の決勝を裁いた記念のタトゥーを腕に入れ、私生活でのビジネス失敗により借金を抱えて8カ月間の謹慎処分を受けたこともあった。
 
 それでもトップクラスとして雇われ続けているのだから、その能力には疑いの余地はない。20代半ばという異例の若さでフットボールリーグ(2~4部)の試合を裁き始め、「天性の審判」と評判を受けたクラッテンバーグは、経験を積みながら個性派が揃うイングランドの監督陣や強烈な国内メディアも認めるカリスマ性をも身につけた。

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