【広島】エースの宿命に直面する工藤。苦悩の先に見据えるビジョンとは?

2017年05月01日 小田智史(サッカーダイジェスト)

「ここを乗り越えれば、きっとまたひとつ成長できるはず」

工藤はエースとしてチームが降格圏に沈む責任を真摯に受け止める。 写真:小倉直樹(サッカーダイジェスト写真部)

[J1リーグ9節]FC東京1-0広島/4月30日/味スタ
 
 工藤壮人にとって、FC東京戦は"我慢のゲーム"だった。
 
 DFと駆け引きを続けても肝心のくさびが入って来ず、ロングボールの競り合いはことごとく丸山祐市と森重真人のCBコンビに潰された。前線で孤立するシーンが目に付いたのは、チーム全体の機能不全によるところが大きい。
 
 ただし、チャンスがまったくなかったわけではない。32分、柏好文の左サイドからのクロスボールに合わせてヘディングシュート(結果は枠外)。56分には鮮やかなボールコントロール&ターンでDF2枚を置き去りにし、フリーでシュートを放っている。後者はGK林彰洋の好セーブに阻まれたとはいえ、FWとしてはゴールネットを揺らしたい場面だった。
 
 攻撃陣が大きく入れ替わった今季は「新しいチームを作っている段階」(工藤)だが、降格圏に沈む苦境も重なり、昨季リーグ得点王のピーター・ウタカ(現・FC東京)や佐藤寿人(現・名古屋)の退団を悔やむ声も少なからず耳にするようになった。工藤ひとりの責任ではないとはいえ、敗因の矛先を向けられるのはエースの宿命でもある。本人も、それは広島への移籍を決断する前から覚悟の上だという。
 
「寿人さんがいなくなって、次に誰が前線を引っ張っていくのか、不安に感じている方々もいるでしょう。そういったプレッシャーは感じるだろうなと思っていました。でも、それさえも楽しみながらやるくらいじゃないと」
 
 試合後の記者会見で、森保一監督が「チャンスを作りながらも点を取れないことが多いなか、続けていけばという思いなのか、変えなければいけないという思いなのか?」と問われる一幕があった。指揮官は迷わず、「形が変わってもチームとしてゴールに向かう意識を忘れなければ、より多くの得点につながると思うので、続けていくことが大切」と答えたが、工藤の想いも同じだ。
 
「ペナ(ペナルティエリア)の中での駆け引きは僕のストロング(ポイント)。ペナに入っていく場面を増やしていきたいと思っていますけど、チームの攻撃の仕方として最終ラインからしっかりとつないでいくので、ペナに入っていくまで少し時間が掛かるチームかなと。だからこそ、より選手がしっかりと動いて、僕は最後に仕事をするところのイメージを持たないといけない。なかなか波に乗ることができていませんが、一喜一憂せず、我慢して継続していくのが一番。ここを乗り越えれば、きっとまたひとつ成長できるはずだから」
 
 ストライカーに求められるのはゴールであり、勝利に導くのが役目だと工藤は痛いほど理解している。骨を埋める覚悟で広島の地に降り立った男の意地に期待したい。
 
取材・文:小田智史(サッカーダイジェスト編集部)

 

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