【蹴球日本を考える】異次元の巧さ! 浦和を翻弄したオスカールが教えてくれたこと

2017年04月12日 熊崎敬

万能な選手がいると、チームの可能性は限りなく膨らんでいく。

高い技術を見せつけたオスカール。激しいマークにつかれても、余裕の表情だ。写真:小倉直樹(サッカーダイジェスト写真部)

 オスカールの巧さに驚くべきものがあった。だが、その抜群に巧い男が2度もPKを失敗したことには、もっとびっくりさせられた。
 
 浦和がラファエル・シルバの一撃を守り切った一戦、強く印象に残ったのはブラジル人の上手さである。
 
 ゴール前で3人を相手にしながら、右に出す素振りを入れて落ち着いて針の穴を撃ち抜いたR・シルバの一撃は見事だった。背後から強烈なプレッシャーを受けながら、悠々とドリブルするエウケソンの強さも印象深い。
 
 ただブラジル人の中でも、オスカールの巧さは異次元のものがあった。
 
 後半、オスカールはひとりで浦和を翻弄した。
 敵がボールを奪いに来ると緩急の変化でかわし、敵が間合いを取って構えると、今度は巧みにボールを動かし、一瞬の動きで置き去りにする。背後にぴたりとつかれた時も、まったく慌てずボールを掻くようにしながら前を向いてしまう。
 文字通り、ボールを持っているかのように操っていた。
 
 前を向き、目の前の敵を抜くという課題を、オスカールはひとりで解決する。こういう万能な選手がいると、チームの可能性は限りなく膨らんでいく。
 エウケソンとのワンツーで敵の密集を抜け出したり、敵を何人も引きつけて味方に決定機をお膳立てしたりするなど、面白いようにチャンスを創り出した。
 
 オスカールのプレーは、個人技の大切さを改めて教えてくれる。日本では組織力が重視されるが、能力の低い個人が集まるより、能力の高い個人が集まったほうがいいことは間違いない。
 
 では能力の高い個人を生み出すには、どうすればいいのか。もちろんこれは、簡単に答えが出るものではない。
 ただ個人技がいちばん磨かれるのは、頼るべき味方もいない環境でプレーする時だろう。これは間違いない。そう、1対1だ。
 
 ブラジルもずいぶん状況が変わり、ストリートサッカーの光景は減ってきたが、それでも貧しい地区では狭い路地で子どもが1対1に明け暮れている。抜くか、抜かれるか。これほど個人を鍛えるゲームもない。こうした戦いを勝ち抜いていった強い個人に、戦術が施されることになる。
 
 日本に局面をひとりで打開する個人が少ないのは、幼いころから大人が戦術を植えつけようとするからだ。
 1対1をやらないうちから、組織の論理が割り込んでくる。日常生活で輪を乱さないように求められるのだから、サッカーがそうなるのも無理もない。
 
 個人と組織について書き始めるとキリがないので、このへんで。
 ちょっと待った。最後にもうひとつ書いておきたいことがある。
 
 PKのことだ。槙野も柏木も脇が甘すぎる。
 ペナルティエリア内はブラジルでいうと、行ってはいけない路地のようなもの。手を出してクロスに飛び込んだり、無防備にボールに近づいていったりするのは、一眼レフを首からぶら下げて路地歩きをするようなものだ。身ぐるみはがされても文句は言えない。
 
取材・文:熊崎 敬(スポーツライター)

【PHOTO】ブラジル人アタッカーの巧さが際立った浦和vs.上海上港
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